ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
拡散された画像には、「未だに挨拶すら出来ない馬鹿が多すぎる」「個人的に張り倒した輩が何人もいる」「アホが、何故会社にいる?辞めて転職したらいいのに」「生殺与奪の権は、私が握っている」「どう生きて行くアホ共よ」などとあった。
この過激な表現に対して「ヤバ過ぎ」「ブラック」「パワハラ」などとネット上は炎上状態に。これを受けてコロワイド広報室はコメントを発表。「ビジネス・商売の基本となる考え方を述べたもの」「弊社会長の独特の言い回し」で「本来の意図が伝わらず、お騒がせする事態となり」「深くお詫び申し上げます」とし、「ご意見を頂きましたことを踏まえ、今後は真摯に対応して参りたいと考えております」とまとめて、全文をネット公開した。
オーナー企業の広報
騒動の原因が「本来の意図が伝わらなかった」からか、「伝わった」としたら炎上しなかったかどうかは議論の余地があるが、創業者が現役の組織やオーナー企業の場合、トップの強烈な個性でマネジメントされている組織が少なくない。そんな中には、社外では受け入れられにくい「独特の言い回し」が使われ続けていることも少なからずあるのだろう。それをうまく翻訳・通訳し、社内外に向けてコミュニケーションをするのが広報の役割だ。
この基本となる考え方をまず確認しておきたい。というのも、その役割にいる人たちに聞けば、「そんなことは分かっている」と答えるはずだからだ。分かってはいても、資本を握り、それまでずっとそうして実績をあげてきたトップとやりあうのは決して容易なことではない。信頼を勝ち得なければ、提案すら聞いてもらえない。
貴重なタイミングを逃すな
一方で、世の中の変化を経営と共有し、時代に合わせたコミュニケーションの形を模索していくのは広報の責務である。今や社内向けに書いたものがネット流出する可能性は常にあり、社内の「当たり前」を見直す必要に迫られることは珍しくない。広報がそれにどう対応していくかが問われている。
基本的な方向性は、情報公開の積極的な推進であり、世間の声、お客さまの声にきちんと応えていくことだ。キーとなるのはそのタイミングで、上場や買収、役員の交代などで組織が変わるとき、あるいは新たな経営ビジョンを発信するような数少ない機会を決して逃さず、そのときが来たら一気に進めることである。今回のように注目されたときも滅多にないチャンスだ。
コロワイドは注目された社内報のみを公開したが、対応としては今一歩足りない。社会の声を踏まえて何をどうするかを宣言し、社内報は過去のものも含めてすべて公開するなど、対応の本気さを見せたい。買収で事業拡大してきた会社なのだから、買収された会社のスタッフもスムーズにコロワイドの一員になれるよう、研修体制の見直しも含めた社内外のコミュニケーションを強化する機会にすることだ。
ビーンスター 代表取締役 鶴野充茂(つるの・みつしげ)米コロンビア大院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。2017年4月から社会情報大学院大学客員教授。著書はシリーズ50万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトは http://tsuruno.net |