ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
フェイクニュースという名の、真偽が定かでない情報がニュースの世界にも入り込み、広報としても真剣に対策を立てていかねばならない段階に来ている。今回は沖縄の美ら海水族館が名指しされて注目を集めたが、他の水族館でも、また別の事業でも有り得た出来事であり、再び今回のような騒ぎが起きる可能性も少なくない。その観点から対策を考えてみたい。
フラッシュ撮影を禁止する水族館も多い中、美ら海水族館では禁止していなかった。そのため、フラッシュをピカピカさせているところにマグロが水槽のガラスに激突して血を吐き、その場が騒然となるシーンを見た時、フラッシュが原因、という発想をもった人たちが、拡散の衝動に駆られたというのが、今回の騒動の構図だろう。
よくある質問と回答を明示
美ら海水族館はウェブサイトに「よくある質問」をまとめており、フラッシュ撮影も制限が設けられていないエリアではOKとしていること、理由として「フラッシュ光がアクリル面での反射、および水中透過時に減衰することから、安全性を確認した上でフラッシュ撮影を可能としております(一部の水槽を除く)」と明示しており、冷静に調べる人には必要な情報があった。
その結果、拡散されている情報がデマであることを騒動の後、早い段階でメディアが報じた。よくある質問と回答を明示していたことが、日頃のリスク管理として機能したことになる。
マスコミとの違い
マスコミが誤った記事を出した時、広報は通常業務として、その媒体社に対して訂正記事を求めたり、自社で広報コメントを出すなどをする。それによってひとまず誤った認識の広がりは抑えることができる。ところが情報の出所がソーシャルメディアなどの場合、もともとの発信者が明らかでなかったり、騒動を目的とした確信犯の場合もある。訂正を発しても十分に行き渡らない場合も多く、また最初の偽情報の拡散が長期間にわたって続くなど、状況がその都度異なるため、一律の対応ではうまくいかない。
そこで、まず今回のように、よくある質問と答えをウェブ上に用意することに加え、いざという時に迅速に対応できるよう自分たちに関するネットの話題を常にウォッチしておくことが不可欠だ。これに加えて、注目が集まった時には積極的に取材を受け、さらに自らパブリシティの機会を設けて、広まった疑問や疑念に対する情報を発信していくことが求められる。
世間の関心を集めたのは、理解を深めるチャンスであり、まさに日頃から進めているパブリックリレーションズの真価が問われる重要な機会だ。美ら海水族館のサイトを見ると、リアルタイムの混雑状況表示まであり、利用者のニーズをよく理解してつくられていることが伝わってくる。こうした日頃の工夫が、騒動をきっかけにして、より多くの人の行ってみたい気持ちを刺激することにもつながると考えられる。
ビーンスター 代表取締役 鶴野充茂(つるの・みつしげ)米コロンビア大院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。2017年4月から社会情報大学院大学客員教授。著書はシリーズ50万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトは http://tsuruno.net |