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「物語」で強くなる コーポレートブランド

年間広報計画に組み込んで考えよう 「企業人格」を体現するストーリーの開発方法

牧 志穂(博報堂 PR戦略局コーポレートPR部)

戦略的な広報活動に欠かせないのが、企業を語る魅力的なストーリーだ。年間の活動計画や広報ツールで伝えるべきメッセージを考える上でも重要となる。ここではステークホルダーに届くストーリーの構築法を考えていきたい。

そもそも「企業人格」とは何だろうか。広報戦略上、なぜ企業に「人格」を定めるのか。まずはその必要性について考えてみたい。

博報堂では、広報活動領域を「経営」「マーケティング」「ソーシャル」「インナー」の4象限に分類し、それらの中心に「企業人格領域」があると考えている(図1)

図1 企業人格と4つの広報活動領域
出所/上野征洋『CI計画ハンドブック』

つまり、企業人格とは、広報活動領域のすべての源流としてその活動を左右する一方で、個々の広報活動の結果としてつくられるものである。企業人格=企業の「顔」やレピュテーションだと考えると分かりやすい。まずはどんな「顔」をつくりたいかをしっかり決めてから、それをより効果的に伝える発信機会を検討していくことが重要だ。

企業人格を意識しないで広報活動を進めると、どうなってしまうのか。それぞれの発信機会ごとに個別最適で動くことになり、メッセージに食い違いが出てしまうことも。さらに、予算配分の決定も、どうしてもマーケティングボリュームが大きい方が優先され、他に企業として伝えたいメッセージを効果的に伝えられる機会があったとしても後回しにされてしまう。

「どのようなレピュテーションを獲得したいのか」「メディアや取引先などのステークホルダーからどのような“枕詞”で語られたいか」という観点から逆算して、図1の4象限の中で注力すべき領域や機会を決め、社内で共有しあらゆる部署が連携することが重要だ。その結果、より効果的に、戦略的に企業のレピュテーションを高めることができるのである。

ストーリーを広報に活用する

目指すべき企業人格を決定し、どのようなレピュテーションを得たいかがはっきりしたら、次は具体的に発信する内容を構築する段階になる。ここで重要なのが「キーメッセージ」と「キーファクト」だ。

メディアなどを通じメッセージをより効果的に伝えるためには、「10大視点」を参考にしてほしい(図2)

図2 企業メッセージ発信における10大視点

例えば、記録性は「業界シェアナンバーワン」「○○史上初」、権威性は「○○大学と共同開発」「有名な○○さんが推薦」などが考えられる。話題になっているメディアの記事をみてみると、この10の視点のどれか、または複数の切り口が組み合わさっているケースが多いことが分かる。

ただ、記録性や権威性、国際性、季節性などは、それぞれファクトが必要になる。そう聞くと「そんな大層なファクト、うちの会社にはない」と尻込みしてしまいがちだが、実はどのような企業でも成立しやすい視点がある。これが、「物語性=ストーリー」だ。

創業時の思いや、技術や商品が生まれるまでのエピソードや苦労話は、どんな企業にもあるだろう。企業トップの生い立ちや、入社から現在までの挫折や成功体験談にも、魅力的なストーリーがたくさん隠れている。

メッセージをより印象深く伝えるために、これを使わない手はない。特に失敗談や苦労話はメディアが好んで扱うテーマでもあり、戦略的に表に出していくのがよい。最初から完璧な人間よりも、苦闘や挫折を乗り越えて現在があるという方が親近感がわき好印象となる。

ストーリーの使い方だが、例えば同じファクトを伝えるにしても、単に「開発に3年かかった」と言うだけでは漠然としていてイメージしづらい。捉え方によってはネガティブな印象を抱かれる可能性もある。

一方、「開発担当者がこだわり抜き、途中で素材からすべてを見直ししたため、開発に3年の歳月を費やした」と具体的に伝えると、印象がまったく異なる。3年を費やした理由が、「こだわり」や「良質な素材へ見直した」結果だと分かり、より好意を感じてくれる可能性が高まる。

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