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「物語」で強くなる コーポレートブランド

企業が情報の中心ではなくなった今こそ「人」起点のストーリー広報が重要に

北見幸一(東京都市大学 都市生活学部 准教授 博士(経営学))

「企業が情報の主導権を持つ時代ではなくなった」と言われて久しい。今こそ生活者に支持され、共感される企業になるために広報の力が求められている。広報活動に欠かせない企業の魅力を形成する要素について、データをもとに検証したい。

これまで我々のもとに届く情報の多くは、そもそも政府や企業・団体など組織側に集中し、組織と生活者の間で、情報の非対称性が生じていた。例えば、政策・規制に関わる重要情報は政府や行政機関が発表し、我々はその内容を、新聞やテレビの報道を通してしか知ることができなかった。企業の情報も同じで、情報を持っているのは企業側であり、企業に関係する情報のほとんどは、企業側から生活者にトップダウンで流通する非対称的な情報流通構造であった。

ところが近年、SNSなどのソーシャルメディアの普及により、その情報流通構造に大きな変化がもたらされている。個人が情報発信の機会を獲得し、個人のつぶやきが的を射たものであれば、仲間の共感を呼び、ネット上で拡散し、世論を形成して、企業活動にも大きな影響を与え得る時代になったのである。

いまや企業は、かつてのように情報を独占することはできない。自らの知らないところで、自社に関わる大切な情報が生まれ、情報が流通し、独り歩きしていく時代なのだ。このような情報流通構造の変化に対応し、企業活動では自らも情報発信手段を増やすとともに、ステークホルダーに対してより丁寧で直接的な対話によって信頼関係を構築することが求められるようになってきている。

もはや「企業が情報の主導権を持つ時代」「企業が情報の中心に存在する時代」ではなくなったと言えよう。

「受け身広報」からの脱却を

そのような情報流通構造の変化の中で、これまでと同じような広報活動が通用するわけがない。モノやサービスがあふれてコモディティ化した成熟社会では、ただ単に新商品・新サービスの情報を流すだけでは、生活者の共感を得ることはできず、その情報は拡散していかないのである。

広報活動も同じで、メディアからの問い合わせ・取材対応をしているだけの広報では、伝えたいことを伝えられずに終わる可能性が高くなってきている。マスメディアの記者が取材してくれる切り口がたまたま良ければ生活者の共感を得ることができるだろうが、単なるベタ記事で終わることも十分にある。

企業の広報部の方々の悩みとして「受け身広報からの脱却」を掲げるケースは非常に多い。広報担当者も頭では理解しているものの、なかなか受け身で業務を進める姿勢から脱却することができていないというのが正直なところであろう。メディアからの問い合わせがあってから動き出す広報、あるいは場当たり的な広報ではなく、しっかりと「攻めの広報」を行うためには、広報戦略は欠かせない。

ここでいう広報戦略とは、「広報目標達成に向けたシナリオ」ということである。広報戦略では、「広報目標」つまり「ありたい姿」に向かってどのように進むかが重要になってくるのである。そして、その広報目標に達成するためには「誰に」「どのように思われたいのか」を考えて、そのための筋道を組み立てる必要がある。広報目標は、企業の経営戦略によって様々な目標があると思われるが、どの企業でも共通して言えるのは「魅力的な会社と思われたい」ということだ。

魅力的な企業が持つ要素とは

魅力的な会社という言葉があるが、企業の魅力を考える際の「魅力」とは何であろうか。辞書によれば「魅力」とは「人の心をひきつけて夢中にさせる力」(デジタル大辞泉)、「人の心をこころよく引きつける力」(大辞林第三版)ということになる。「魅力」というからには「引きつける」ということが必要不可欠だ。企業においても、人・モノ・カネ・情報を引きつけ、強い企業となるために、「魅力」は一層重要になってくるであろう。

企業における「魅力」は「人の心を引きつける」ものであり、実際に企業が行っている活動や実態を伴ったものでなければならない。イメージ上のものは憧れることはあっても、人々の心をつかむことはできないのである。「魅力」において重要なのは、イメージではなくファクト。つまり、事実、実態、振る舞いそのものが魅力を生み出す源泉なのだ。

企業は組織であり、企業そのものは具体的には目に見えるものではない。実際に、我々が企業として見ている情報には、以下の3つの領域があると考えられる。

ひとつは、企業が行っている事業活動としての「商品・サービス情報」の領域である。2つ目は、企業として成立するための必須要素の尺度ともいえる売上高・利益・資本・従業員数といった企業体に関する「会社的情報」の領域である。そして、最後は、経営者・役員・従業員などその企業に属している「人」を中心とした「人的情報」領域である。

企業は「人」の集合体である。経営者という「人」が、従業員である「人」を雇用し、会社に組織化して、働く人々および様々なステークホルダーと緊密な関係を構築しながら、組織の共通目標(ありたい姿)のために活動を行っている集団が企業である。通常、我々は報道や広告などメディアに登場する「経営者」、あるいは店頭や戸別訪問により接する「従業員」などを評価して、企業の魅力の一部として認識していることが多い。

広報活動は虚構の世界ではなく、ファクトに基づいたものを、魅力的に伝えていく活動である。前述した「商品・サービス情報」「会社的情報」、そして「人的情報」もすべてファクトに基づいた情報であり、広報活動の素材となり得る ...

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