1952年から同地で営業
芝居の街で差し入れに利用
インバウンドにも人気
小田急線の下北沢駅ほど、この10数年で様変わりした駅周辺は少ないかもしれない。しかし駅から徒歩3分、昔から一切変わらないたたずまいを保つのがせんべい店の「玉井屋」だ。店頭には四角い大きな陳列箱が多数並び、1枚ずつ購入できるおせんべいやおかきが種類ごとに入る。その上に置かれた円形の「地球瓶」と呼ばれる丸い容器にも、小袋やグラムではかり売りする各商品が詰まる。「『地球瓶』は店ができた時に買ったものです。今はもうどこにも代わりはないのでは……」と店主の木村博子さんは話す。
店は元々2023年2月に亡くなった博子さんの夫の叔父が1913年に本所で開業。亡夫の母も同業で、関東大震災の後、静岡県の三島に移り、1952年に下北沢に移転してきたという。博子さんは神田神保町の製本屋の娘。見合いで夫と出会い、1977年に下北沢に嫁いできた。「古本屋しか目立たなかった神保町と比べ、新しい店が開店すればチンドン屋さんが来るなど、賑やかな街に来たなと思いました」と話す。
下北沢駅前には戦後直後から続く小売店の集まるマーケットが2017年まで続いていたが、今はない。店の前を走っていた小田急線も現在は地下に潜り、空き地が広がる。「うちの店も、ここから歩いて3分の工場も借地ですが、とにかく古いので何とか続けさせてもらってます」と言う。
開店は午前10時。シャッターを開けたら工場で早朝からせんべいを焼いているふたりの職人さんの食事をつくる。共に80代と70代とのこと。