BtoB、BtoCともに規模の拡大を続けているEC市場。そういった中でも上手くいっているブランドとそうでないブランドの差が開き始めている。ECモールで売上を生むためにおさえておくべきポイントとはなにか。
富士経済によるとEC・ネットスーパーを含めた2022年の通販市場は前年比4.4%増の15兆1015億円を達成。その中でも13兆2780億円という9割近くをECが占める結果に*。さらなる規模拡大が予想されるEC市場の現状や今後の変化について、日本で唯一の通販CRM専門である「日本通販CRM協会」に話を聞いた。
「当協会はオンラインのEC市場であっても、消費者のことを想いやってよい関係を維持していくことが必要不可欠だと考えています。市場がさらなる拡大へと向かう中でお客さまから『選ばれる』企業になるために、顧客とのコミュニケーションの質が問われる時代になってきているのではないでしょうか」と話すのは代表理事の向 徹氏だ。
EC出店率の現状
全国的なEC市場の規模拡大が発表されている中、実際のEC出店率はどのくらいなのか。
向氏は、個人の推定感覚としては、「ECモールの出店対象になる企業が100社あるとして、コロナ前はその半分、50%ほどが出店している状況でした。コロナの感染拡大が始まってからは出店数が徐々に増加し、現在ではもともと出店していなかった5割のうち、約3割が出店していったイメージだと感じています」と答えた(図1)。
残りの企業が出店に踏み出せない大きな理由として挙げられるのは「まだ担当者がネットの操作に慣れていないこと」「ECモール出店が売上拡大につながる確証がないこと」などが考えられると、同協会の理事を務める木村泰宗氏。
また、ECモールの売上が伸びることによって、相対的にリアル店舗の売上が下がってしまうのではないかとの懸念を抱えている担当者もいる、と話す。
「リアル店舗とECモールを同じと考えるのではなく、それぞれを別軸として捉えることが大切なのではないでしょうか。リアル店舗で買い物をすることが好きなお客さまと同じように、通販で買い物をするのが好きなお客さまもいます。このように、チャネルごとにいる利用者の特性を捉えた運用が必要です。簡単にできることではないかもしれませんが、逆に言えば、そういった運用が上手くいった場合、対象顧客が大幅に拡大するはずです」(木村氏)。
リアル店舗とECモールでのコミュニケーションでは、同じ対応をして同じ反応が返ってくるとはもちろん限らない。例えば、アパレルブランドのリアル店舗の場合、その商品が自分に似合うものかどうか判断してもらうためには、言葉を尽くすよりもお客さま自身に試着を促すことが適切な対応かもしれない。しかし、オンライン上のECモールでは試着をすることが難しい。そういった場合にはそのブランドのストーリーや、商品のサイズ・着心地についてわかりやすく表記して購入を促すことが求められるだろう。
モールの変化から見えた課題
また、同協会の会員で行っている定例会では「一度注文してくれた方に、またリピートしてもらうためにはどうすればよいのか」といった議題がよく聞かれると向氏。「また買いたいと思ってもらえるようなコミュニケーションを設計できるECモール担当者の育成をどう行うのか」、「ページ作成だけでなく、EC全体を広く俯瞰することができる人材を育てたい」などの人材育成・採用といった課題もあるという。
このような課題に至った背景について、木村氏は「コロナ禍を経て起こったECモールの変化」を挙げる。
「まず、ECに出店する店舗数の増加で競合が増えたことによって、市場のシェアをとれない企業が出てきたこと。また、店舗数の増加によって広告の需要が高まり、広告出稿費用が上昇したといったこともECモールに変化を与えています。広告を多く出稿して露出回数を増やすことができていたコロナ前と比べ、現在は露出回数ではなくクリエイティブの質で認知拡大を図る必要が出てきました。また、コロナ前はECモールに出店する企業は小売業界がほとんどでしたが、コロナ禍でリアル店舗での仕入れが減少したメーカーもECに参入を始めました。モールが小売中心からメーカー中心になりつつあるというのも大きな変化だと思います。一方、ECモール運営会社側は、一度撤退した大手海外ブランドの誘致に力を入れているようです」(図2)。
競合増加やメーカーの参入などによって、戦国時代となりつつあるECモール市場。先述のECモールの特徴から考慮すると、サイト制作などの部分的な...