
入場料を取る書店「文喫」の書棚は一見無造作に本が積まれている。それは利用者に山を掘らせて運命の一冊との出会い──セレンディピティに導く演出である。
イラスト/高田真弓
2023年である。思えば、長いコロナ禍で僕らの暮らしも変わった。リモートワークは当たり前になり、大人数の飲み会はなくなり、家の中での過ごし方が上手になった。
マーケットも変わった。長期低落傾向にあった出版市場は、2019年からプラスに転じ、特にコロナ禍の20年以降の伸びが著しい。牽引したのは電子出版とネット通販だ。特に21年、紙の書籍が15年ぶりに増加したのは、出版界にとって久しぶりの明るいニュースに。
とはいえ──良い話ばかりでもない。街の書店はこの10年間で3割も減少。僕らの日常と書店との接点がどんどんなくなっている。そうなると、何が起きるのか?電子出版やネット通販は基本、目的買いである。買いたい本を検索して、ポチって終わり。一方、街の書店では、お目当ての本を買いに来たついでに、店内を散策する。その時、本の装丁や帯に惹かれ、中をパラパラと見て、『面白そう!』と衝動買いすることも少なくない。そして不思議と、そんな出会いを...
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