明治安田生命J2リーグに参戦するツエーゲン金沢は2019年、平均観客数5209人を記録した。14年のJリーグ参入以降、最多の動員となった。近年はマスコットキャラクターによるヒーローショーなど、ユニークなイベントでホームチームだけではなく、相手チームファンの話題にも上る。さらに19年11月、アパレルブランドまで立ち上げた、ツエーゲン金沢の取り組みに迫る。
勝敗に左右されない集客のため魅力的なエンタメを追求
ツエーゲン金沢は、金沢サッカークラブを前身として2006年に誕生した。14年にJリーグへ参入すると、同年にJ3優勝、翌年からJ2リーグで戦っている。
J2昇格初年度は話題性やシーズン序盤の好成績に加え、北陸新幹線開通というアクセス性の向上もあり、序盤戦では5000人を超える観客数の試合も多かった。平均観客数は4910人と、前年の平均3440人から大きく伸ばした。
15年にクラブを運営する石川ツエーゲンに入社し、現在は事業企画部で部長を務める中山大輔氏は、こう振り返る。
「15年は、横浜FC戦で三浦知良選手、コンサドーレ札幌戦で稲本潤一選手、小野伸二選手(いずれも当時)など、それまで金沢では見られなかったスター選手が来ました。横浜FC戦は地元テレビ局がチームバスの到着から生中継するほど。しかし、同年の夏頃からチームが不調となるにつれ、動員も下がってしまった。勝敗に左右されない集客施策の必要性を痛感しました」
どのように観客を集めるか。シーズンパス購入者の伸び悩みにも不安がつきまとった。15年は約200枚、16年は600近くまで増えたものの、それでも「J2ではダントツの最下位くらいの数字」(中山氏)だった。上位リーグへの昇格や対戦相手のスター選手など、話題性で多くの観客を集めてはいたものの、その後、クラブを熱心に応援するファンにまで定着させられていなかったのだ。
「集客に最も寄与するのは魅力的なサッカーで勝利することなのですが、残念ながら勝負は水物。負けることも十分にありえます。それならば、エンターテインメントを充実させ、チームが勝っても負けても、来場された方が楽しめるようにしようと考えました」(中山氏)
周りに話したくなるストーリー「ヤサガラス劇場」
17年には公式マスコットをリニューアルした。それまでの「ゲンゾー」がサポーターの応援で進化し、ヒーロー然とした容姿の「ゲンゾイヤー」に。同時に登場したライバルキャラクター「ヤサガラス」とともに展開する「ヤサガラス劇場」は現在、ホームかアウェーかを問わず、ファンの人気を集めるコンテンツとなっている。開幕から最終戦まで、シーズンを通じて展開するストーリーはファンの楽しみのひとつだ。
「ヤサガラス」は当初から計画にあったキャラクターではなかった。「『ゲンゾイヤー』をどう披露するかをクリエイターと詰めていた際、対戦相手の味方になるキャラクターがいたら面白いのではないか、ということで誕生しました」と中山氏は話す。
「これが想像以上にハマり、相手チームの方にも喜んでもらえました。ヤサガラスをきっかけにツエーゲンのことを知ってもらうこともできましたし、『ヤサガラス党』というファンクラブも創設されました。会員の約半数が他チームのサポーターと思われる県外の方で、新たなファン層を開拓することができました」(中山氏)
対戦相手のファンの心をとらえることの意味は、見かけ以上に大きい。中山氏は...