流通革命の起きた1960年代以降、特に平成期は、商品の買い方やモノとの付き合い方が大きく変わった30年間でした。消費者、来店客にとっての「実店舗の価値」も移り変わっています。店舗の存在を考え直すことが、これからの発展には不可欠です。
いかに来店機会をつくるか。そしてそのチャンスを逸しないような体制を整えるか。消費者向けコミュニケーションと来店前後のケアを連動させ、再来店や話題づくりにつなげるスシローの戦略を紹介する。
頭の中のサイコロの面にスシローの居場所をつくる
スシローグローバルホールディングスの売上高は1748億円。全国531店舗を運営し、1年間ののべ来店客は約1億5000万人に上る。既存店売上高は23カ月連続で昨年超えとなり、回転寿司で8年連続売上高がトップの企業だ。
講演した中野智之氏は、あきんどスシローを擁するスシローグローバルホールディングスのコミュニケーション企画推進部部長を務めている。
中野氏が忘れられないエピソードがある。外食をするときに、どの店に行こうか、いつも悩むという家族の話だ。そこで各面に店名を記したサイコロを作り、それを振って店を選ぶというのだ。
「ソーシャルメディアでこういった投稿を目にして、まさにこれが世の人々の頭の中を表していると思いました。『きょうは外で食べよう』と考えたときに無意識に振られる、サイコロの面に入ることが非常に重要だということです。実際は6面もなく、おそらく3つか、多くて4つ。いずれにせよ、面に入らなくてはなりません」(中野氏)
外食をしようという気持ちが生まれた瞬間に想起される選択肢に入るため、中野氏は「ふだんから身近な存在である必要がある」と話す。そこで、広告など消費者に向けたコミュニケーション施策でも、身近であることを重視し、楽しまれることを意識しているという。
加えて消費者からの発信、つまりは話題になる存在であることも、身近さを感じさせる大きな要因となる。以前こういった内容の投稿があった。
「スーパー銭湯の近くにある店舗に、銭湯の帰りにノーメイクで立ち寄られたということで。『スシローだからすっぴんでも大丈夫』という投稿でした。スシローにとっては、この距離感が理想」(中野氏)
ソーシャルメディア上での言及数は、スシローが重視する指標のひとつだ。社長以下、経営陣もチェックしている。
他社とのコラボレーションも重要な施策だ。「国民的なお菓子とのコラボは特に重要と考えている」と中野氏は話す。最近では、明治の「きのこの山」「たけのこの里」とのコラボが実現した。過去には、有楽製菓「ブラックサンダー」や、カルビー「ポテリコ」とも。これらも身近さを意識した施策だ。
「スシローを起点に家族の会話を生むことが狙いです」(中野氏)
オールターゲットであるスシローは、子どもも重要なステークホルダーというべき存在。「だっこずし」というキャラクターで、子ども向けのスタンプカードを配布している。貯まれば「だっこずし」グッズがもらえる。冷蔵庫の扉に貼るようなマグネットなど、生活で使えるもので、大人の視界にも入るものを企画。
また、ことし4月には、「打!打!打!(だだだ)だっこずし」というタイトルのゲームの配信を始めた。スマートフォンアプリ「スシローアプリ」で遊べる。
「これもプレイにハマっていただければ、ゲームを遊ぶなかでスシローが想起される、ということを目的にしています」(中野氏)
もう一方のキャラクター「すしパンダ」は、ソーシャルメディアなどで消費者とコミュニケーションを図る存在。「すしパンダ」の公式アカウントは1万人ほどのフォロワーを擁する。企業間コラボでも活躍する …