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感じるブックジャケット(AD)

「一匹の蠅」さえも許されない、不自由な世界を問うブックジャケット

古谷 萌「情報鮮度が低く腐敗する書物 或いは 蝿に気付かぬほど熱中する人」

電子書籍では得られない紙の本の魅力のひとつが、手触りや質感だ。ブックジャケットをつけられるのも本ならではの楽しさ。このコーナーではさまざまな質感を持つ竹尾のファインペーパーを使用し、そこに多彩な印刷加工技術を掛け合わせることで、触って感じる新しいブックジャケットを提案していく。

エンボスが特徴的な清潔感のある紙

ギンガムGA、タッセルGA、ジャガードGAなど19種のエンボス加工を施したファインペーパー「T-EOS(ティオス)」シリーズ。その中でも、「ユニテックGA」は有機的な縞柄のエンボスが特徴で、本の装丁などによく使われる。今回は古谷萌さんが32色のカラー(100kgの場合)の中からミディアムグレー、ばら、シトロンの3色を選び、一匹の蠅をモチーフとしたブックジャケットをデザインした。

「このエンボスの手触りが新築マンションの壁紙のようで、清潔感がある。その印象を逆手にとって、不潔なもの、ここに留まってはいけないものを組み合わせてみたいなと思い、一匹の蠅を描いて配置しました」(古谷さん)。その存在感を際立たせるのが、蠅のフォルム全体を浮き立たせたエンボスと、羽の部分の透明ホログラム箔。角度を変えると、鈍い光を放ってくる。

一見して思わず目を留めてしまうこのデザイン、実は複数の意味が込められている。ひとつがタイトルにあるとおり「書物自体に蠅が止まるほど、その内容の鮮度が古い状態」、そして「蠅に気付かないほど読書に熱中してしまう状態」だ。「小説など、物語の世界に浸れる書物に合うデザインだと思います。たとえばフランツ・カフカの『変身』などが似合いそうです」(古谷さん)。

さらには現代の広告表現の“不自由さ”という問題に物を申している側面もある。「SDGsなど社会的に“いいこと”ばかりが求められ、正しくて分かりやすい、100人中100人がいいと言う無難な表現に傾倒している今。綺麗なメッセージがあふれ、おふざけや皮肉が一切許容されないような空気に支配されている。たった一匹の蠅のような存在さえ許されない世界は、息苦しくはないか」──広告クリエイティブの専門誌である『ブレーン』誌上の企画ならではのメッセージを忍ばせた。

「vermilion」ポスター。

「Go To VOTE by vermilion」ロゴスタンド。

「Go To VOTE by vermilion」屋外グラフィック。

    今月使った紙:ユニテックGA

    有機的な縞柄のエンボスで重厚感のあるファインペーパーです。多様なエンボスとカラーの組み合わせからなるT-EOS(ティオス)シリーズのひとつ。

古谷萌(ふるや・もえ)
1984年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。電通を経て、2017年「Study and Design」設立。自身のプロジェクトとして、グラフィックデザインで現代社会を切り抜く「vermilion」を始める。

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