2020年D&AD賞において、古川裕也さんが特別賞「プレジデント・アワード」を受賞した。本賞は、デザイン、クリエイティブ業界に多大な貢献をした個人をたたえるもので、その年のD&ADプレジデントから毎年1名に授与される。いわば“殿堂入り”と言える賞である。この受賞にあたり、古川さんに現在に至るまでのクリエイティブについて、そしてコロナ下でのクリエイティブの変化について聞いた。
電通クリエイティブの領域の拡張
──プレジデント・アワード受賞おめでとうございます。
ありがとうございます。いわゆる殿堂入りで、要は、グローバルに老人と認定されたということですね。広告では、ダン・ワイデン、サー・ジョン・ハガティ。デザインでは、テレンス・コンラン、リドリー・スコット、ジョナサン・アイブなど。これまでの受賞者を見ると、うれしいというより、むしろおそろしく、おこがましい。個人の賞ですが、電通のクリエイティブ全体に与えられた賞だと思います。
──この10年の間に、電通クリエイティブの存在感が海外でも高まってきました。その背景には、どんなことがあるのでしょうか。
ひとつは、クリエイティブの領域の拡張。これはどのエージェンシーも取り組んできたことですけれど、電通の仕事には、マスもデジタルもPRもメディアもオリンピック・パラリンピックなどのビッグ・イベントも、まだ種目名がないような仕事もある。ひとことで言うと、クリエイティビティが必要な仕事は全部やるということです。それがさらにこの10年で多様化しました。これほど広い領域を持っているエージェンシーは他にはありません。
昔はそれが、でかすぎてダサいと言われていたんですけれど、最近はむしろ、海外のクリエイティブ・パーソンからうらやましがられるようになってきました。「ずいぶん楽しそうじゃないか」と。クリエイティブの仕事は何でも自分たちでできる。フィルム、デザイン、デジタル、PR、メディア、イノべーション、コンテンツ、データなどなど、この10年くらいで受賞したカテゴリーの広さがそれを証明していると思います。
ふたつめは、あたりまえですけれど、それぞれのクオリティの高さ。広さと高さと新しさを全部持っているところが重要です。
もうひとつは、独特のカルチャーだと思います。僕たちはグローバルだからと言って、それに合わせに行くことは基本しません。なぜなら、それはかっこわるいから。いい意味で異物感がある。これはクリエイティブにとってとても貴重なことなんです。当然カルチュラルギャップがあり理解・評価されにくいという副作用もあります。けれど、その壁を超えて評価されるということは、それぞれの仕事が、自分たちのカルチャーに立脚しながら、世界水準であることを意味していると思います。
効率の敵のような行為に意味がある
──コロナによって、仕事の進め方などは変わりましたか。
8割以上がリモートになりました。移動の時間が少なくなっただけでも効率的です。ただ情報共有のための会議などは問題ありませんが、クリエイティブのきわどい打ち合わせは、リモートでは難しいところもあります。クリエイティブの仕事は、頭脳労働と思われているけれど、半分本当で半分間違っています。人間は頭で考えているように見えるけれど、実は身体で考えている。メルロ・ポンティが...