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米国を騒がせたナイキのJust Do It.生誕30周年キャンペーン

楓セビル

一瞬のうちに野火のように消費者の間に広がるブランド・キャンペーンは稀である。そんな中、キャンペーンが始まって一カ月経たずに、Twitter、Instagram、YouTubeで8000万人が視聴したとされるヒット・キャンペーンが、米国で話題になっている。世界的に有名なナイキのタグライン「Just Do It.(ただやるのみ)」の生誕30年を記念して行われている「Dream Crazy(とことん夢みろ)」キャンペーンのCM(01)だ。

01 ナイキの「Just Do It.」30年記念キャンペーン「Dream Crazy」のCM。元サンフランシスコ・49ersのクオーターバック、コリン・キャパニックを起用し賛否両論を起こした。

ナイキの英断

キャンペーンが一瞬のうちにそれほど大きな話題になった理由は、その主役がいまホットな議論を生んでいる元NFLサンフランシスコ・49ersのクオーターバック、コリン・キャパニック(Colin Kaepernick)(02)だからだ。

02 コリン・キャパニック。フットボールの試合で米国国歌が流れる間、膝をついた姿勢で人種差別に抗議し、チームを去ることになった。

2016年、キャパニックは、フットボールの試合の前に米国国歌が流されている間、敬意を表す直立の姿勢の代わりに、膝をついた姿勢で、当時、頻繁に起こっていた警察の黒人射殺事件や人種差別に対する抗議の意を表明した。数人のフットボール選手もこれに参加した。その時点では、誰も意義を唱える者はいなかった。ただ一人、「国歌を侮辱した」とトランプ大統領が怒った。そのため、NFLもキャパニックの抗議行動に反対を表明。「国歌の間、膝をついた姿勢は禁止する」と宣告した。

ただでさえ二分化しているいまの米国は、キャパニックの行為に対してもたちまち賛否両論が入り乱れた。2016年の終わり、キャパニックはサンフランシスコ・49ersとの契約が切れるや、フリー・エージェントとなって、抗議行動を続けた。が、トランプとNFLの意図をおもんばかってか、彼を雇うフットボール・チームは現在まで現れていない。そんな中で、ナイキが突然、「Just Do It.」の30周年記念キャンペーンにキャパニックを採用した。

ナイキはまず、自社ビルの上の巨大なビルボードに、キャパニックがじっと前方を見つめているモノクロの広告を掲出した(03)。ビルボード一杯のキャパニックの顔の上には、「何かを信じたら、例えそれがすべてを犠牲にすることであっても、ただやるのみ」(Believe in something. Even if it means sacrificing everything. Just Do It.)とタグラインが書かれている。ビルボードと同時に、ナイキはYouTubeに「Dream Crazy」なる2分のビデオを流した。

03 ナイキは自社ビルに、キャパニックがじっと前方を見つめているモノクロのビルボードを掲出した。

反応はたちまちソーシャルメディアに現れ、反対派がナイキの靴を焼き払っているビデオがシェアされた(04)。キャンペーン立ち上げの日、ナイキの株価は下降。キャンペーンの失敗が予想された。だが、多くのマーケット・アナリストは、「最後に笑うものは誰?」と、このキャンペーン戦略を評価していた。

04 キャンペーンが議論を巻き起こし、反対派はナイキの靴を焼き払っているビデオをシェアした。

だが、このキャパニックの広告は、NFLとの長いビジネス上の関係を持つナイキにとっては、非常にリスクの大きい決断であった。事実、ナイキの創始者で会長のフィル・ナイトは、「バカな!」と反対だったと、ニューヨークタイムズは報じている。そして、それを説き伏せたのは、30年間、ナイキの広告を手がけてきたWieden+Kennedyであった。W+Kは、「いまがチャンスだ。NFLを自分の信念のために敵に回しているキャパニックは、ナイキにとって非常に重要な、意義あるスポークスマンになる」と、躊躇するナイキを説得した …

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