
56人の世界的スターやアーティストが次々と登場するアディダス「Creativity is the Answer」。
米国には、テレビ広告が主役になるテレビ番組がいくつかある。アメフトのスーパーボウル、野球のワールドシリーズ、映画のアカデミー賞、音楽のグラミー賞などがそれだ。こうした中継番組を観る視聴者の中にはそれらのために制作される趣向を凝らしたCMを見るために、テレビやコンピュータの前に陣取る人も少なくない。
だが、先日までロシアで繰り広げられたワールドカップ(W杯)の前では、そのどれもが色褪せる感じだ。視聴者の数、CMの豪華さ、全世界を巻き込む興奮など、どんな番組もその敵ではない。ある調査では、世界の人口76億人の約半分34億人がW杯を視聴すると予想されている(『Hollywood Reporter』誌)。
2018年のW杯がロシアで開催されると決まった段階では、FIFA内のスキャンダル、米国、カナダ、イタリアなどの代表チームが予選敗退のため、米国の広告主の参加が少ないと予測されたが、しかし7月15日の決勝戦までには、オンライン、テレビを含む視聴率、ライセンシング、スポンサーシップなどから上がる収入で、FIFA(国際サッカー連盟)は史上最大の成功を収めるものと予測されている(7月初頭現在)。
豪華絢爛、スター煌めくCM群
こんな環境の中に登場する広告とあって、広告主の多くは金に糸目をつけない豪華なCMを希望するようだ。以下にあげる5つのCMはその事例である。
アディダス「Creativity is the Answer(答えはひとつ、じゃない)」
スポーツ界をはじめ、56人の世界的スターやアーティストなどを集めたCM。世界で一番年棒が高いと言われるアルゼンチンのリオネル・メッシ、ウルグアイのルイス・スアレス、昔懐かしいデイヴィッド・ベッカム、フランスのポール・ポグバ、アメリカのアメフト選手ボン・ミラー、テニス選手のキャロライン・ウォズニアッキ、野球のアーロン・ジャッジ、モデルのカーリー・クロスなどが、惜しげもなく1秒にも満たない瞬時に現れる。
ソーシャルメディアでは、CMに登場する56人の有名人の名前を当てるゲームまで流行。CMには楽屋裏で戯れる選手、檜舞台に立つ選手、キックのマジックのような妙技、冗談を交わすライバル同志、昔を懐かしむベッカムなどが現れたり消えたり。選手それぞれのクリエイティビティで、ゲームを、人生を、世界を改善、向上させることを奨励している。制作は72andSunny。
フォルクスワーゲン(VW)「Jump on the Wagon(ワゴンに飛び乗れ)」
1990年以来、必ずW杯に出場していた米国の代表チームが、今年は不参加になり、あらゆる面で波紋を投げかけた。このVWのCMは、W杯のオープニングに登場したものだが、出場できなかったアメリカの代表チームを世界各国の選手たちがユーモアと温かさを持って激励し、「自分たちのチームを応援してください」と頼んでいる。ベルギー、スイス、ブラジル、アイスランド、ドイツの代表チームが登場する。
例えばスイス・チームは豪華なスイスナイフを見せて自慢する、ブラジルはVWに満載のトロフィーを見せ、「ほら、こんなにトロフィーを獲っているよ。ブラジルを応援してね」と促す。ユーモラスで、見る者の心を和ませる秀作。制作したのはDeutsch。

世界各国の選手が、W杯に出場できなかったアメリカの選手にメッセージするフォルクスワーゲン「Jump on the Wagon」。
ゲータレード「Everything Changes(すべてが変わる)」
ゲータレードは、このW杯を舞台に、思い切った大キャンペーンを展開。キャンペーンの中心となっているのはアルゼンチンのメッシと、ウルグアイのスアレスの友情とライバル意識をテーマにした2分余のCM。競技場以外のところでは親友のメッシとスアレスだが、一旦対抗チームとして戦う時、親友はたちまち仇敵となる …