今年9月17日から4日間、千葉 幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2015」に巨大ブースが出現した。規模、企画共に前例のない試みとなった今回の出展を、舞台裏を含めてレポートする。
東京ゲームショウ内に出現したCygames『グランブルーファンタジー』ブース。数ある出展ブースの中でもひときわ来場者の目を引いていた。ゲームに登場する空飛ぶ艇「グランサイファー」が8分の1サイズで再現されている。長さ25メートル、高さ9メートルの大きさは圧巻。
『グランブルーファンタジー』とは?
大地が雲海を漂う空の世界を舞台にした王道スマホRPG。神秘を奉る島《ザンクティンゼル》。そこには、失踪した父の便りを手に、約束の地へと旅立とうとする主人公がいた。主人公たちは、数多くの島をめぐり、出会いと別れを繰り返しながら冒険を進める。
独特のテイストを生かしたビジュアル、個性的なキャラクター、フルボイスで展開されるストーリー、戦略性の高いバトルなどが人気で、熱心なファンを持つ。2014年3月配信開始され、登録者数が600万人を突破するヒット作となっている。
ゲーム中の“空飛ぶ艇”が8分の1サイズで登場
出展ブースというより、まるでテーマパークが引っ越してきたかのようだった。ドラゴンの頭のついた巨大な艇に、中世の世界から飛び出してきたような建物。神殿のようなステージ。多数のブースがひしめく東京ゲームショウの中で、『グランブルーファンタジー』のブースはひときわ来場者の目を引いていた。
『グランブルーファンタジー』は、ゲームの企画開発を行うCygamesが提供するスマホRPG。主人公たちは、空飛ぶ艇「グランサイファー」に乗りながら、冒険を繰り広げていく。今回のブースに再現されたのは、その8分の1サイズの艇。実際に乗船し、ゲームの中に入り込んだような気分を味わうことができる。
中世風の建物の中は上映シアターになっており、視野を覆う曲面スクリーンへのプロジェクションによって没入感ある映像プログラムを楽しめるようになっている。ステージでは、ゲームの作り手たちによるトークショーや、イラストをライブで描くアーティストライブ、来場者にプレゼントが当たるビンゴゲームなどさまざまなプログラムが随時開催されていた。
また、イベントの来場者限定でゲーム内のスペシャルバトルや仲間が用意され、来場者にはさまざまなオリジナルグッズがプレゼントされるなど、訪れたファンを喜ばせる仕掛けもいくつも用意されていた。
世界観に没頭させる演出の数々
ブースには、他にもゲームの世界観を体験させるためのさまざまな演出が用意されている。例えば、グランサイファーの甲板の双眼鏡にはヘッドマウントディスプレイが仕込まれており、のぞき込むと甲板の上に仲間のキャラクターたちが現れ、一緒に旅をしているような気分に浸れる。
他にも、人気のキャラクター「ビィ」のアンドロイドが話しかけてきたり、キャラクターのコスプレをしたスタッフらが常にブースの周りにいたり。こうした演出に触れることで、来場者は徐々にゲームの世界に引き込まれていく。以降では、このブース出展の狙い、そして舞台裏を、インタビューを通じて紐解いていく。
Cygames 春田康一さんインタビュー
「ファンタジーゲームの世界をブースでも提供したかった」
東京ゲームショウ2015の出展ブースの総指揮を執った、『グランブルーファンタジー』プロデューサーの春田康一さん。これほど大規模なブースを企画した狙いは何だったのか。
Cygames 春田康一(はるた・こういち)
Cygames取締役。2003年NHN Japan(現NHN PlayArt)入社。その後、NIKKO(現GMO NIKKO)、ゲームポットを経て、2012年Cygames入社。プロジェクトマネージャー統括、執行役員を経て、2014年より『グランブルーファンタジー』プロデューサー。
「艇を空に飛ばすくらいのことをしよう」からのスタート
「グランブルーファンタジーは、日本のRPGが登場した頃から知っているメンバーが制作陣。ユーザーもこの時代にファンタジーを題材にしたゲームの楽しさを経験している、30歳前後の男性がメイン層です」と『グランブルーファンタジー』プロデューサーのCygames春田康一さんは話す。同ゲームのキャラクターデザインは、ファイナルファンタジーなど数多くの大作RPGの制作に携わってきたグラフィックデザイナーの皆葉英夫さんが担当。音楽は同じくファイナルファンタジーシリーズの大半の楽曲を手がけてきた植松伸夫さんが担当し、ファンタジー好きにはたまらない布陣となっている。
そのよさを最大限に生かし、ゲーム内に登場するキャラクターは独特のテイストを持つCGになっており、キャラクター同士の会話もフルボイス(声優による生声)で吹き込まれているなど、世界観が綿密に作り込まれているのが、『グランブルーファンタジー』の特徴だ。「パズルゲームなど、文章を読まなくてもいいスマホゲームが多い中、グランブルーファンタジーには“読むだけ”のシーンがある。フルボイスにしたのも、文字だけだとストーリーに十分入り込めないと考えたから。声を入れることで、キャラクターに演技をさせているんです」と春田さんは説明する。
今回の東京ゲームショウ出展のきっかけになったのは、広告企画会議での春田さんの何気ない一言。「今後の広告企画を話し合っていたのですが、ありきたりな提案が多くて。自分が面白くないとやりたくない性質なので、『艇(ゲーム中に登場する騎空艇グランサイファー)を飛ばすくらいのことをしようよ』とぽろっと言ったんです」。ものの例えのつもりだったが、それを“真に受けた”プロモーションチームから打診があったのは数週間後。「空に飛ばすのはさすがに難しかった。東京ゲームショウで着地した後の実物を見せませんか?」という提案を受けて、この企画が動き出した。
東京ゲームショウで一番目立つことをしたい
艇を作ることは決まったが、どのくらいの大きさでどう置くか?決めなければいけないことは山積みだった。急ピッチで企画を進め、今年2月には模型が完成、3月からは毎週定例会をして企画を詰めていった。
「『東京ゲームショウ』で画像検索をしたときに、一番目立つことをしようという気持ちは当初からありました」と春田さんは話す。「東京ゲームショウでこんなすごいものを見た!」と写真をアップしてもらい、PRに結びつけたい。ゆえに、艇をどう見せるかも、「どう写真を撮ってもらいたいか」から逆算して考えていったという。艇の3Dデータは既にゲーム用のものがあったので、それを元に原寸の8分の1サイズで具現化。その監修のため、毎週のように埼玉の制作現場にも通った。
東京ゲームショウが始まってからは、現場を訪れた人が投稿した「すげえ」の3文字が連日SNS上に躍った。「まさに狙い通り。グランブルーファンタジーを知らない人も投稿してくれて、成功したという手応えがありました」。
ステージやシアターを含めたブース全体は、ゲームに登場する空を漂う「島」に見立てている。ステージやシアターは、「現場を訪れないと得られない限定体験」を提供する場だ。艇の写真を来場していない人にも広く話題を拡散する一方で、現場限定の体験も設けたかったという。
「シアター内のプロジェクション映像で見られるのは、今後のグランブルーファンタジーの先出しコンテンツです。島を訪れてくれた人に今後のコンテンツを見てもらうことで、これからもゲームを続けたいと思ってほしい。このゲームショウの体験を点で終わらせず、次につなげていきたいと考えました」。
「最高のコンテンツを提供する」会社の姿勢も伝える場に
Cygamesの取締役として、春田さんはこのゲームショウに「Cygamesの作る世界をユーザーに感じてもらう場にしたい」という思いも込める。「Cygamesが提供しているのはゲームに限らない、あらゆるコンテンツです。その一つひとつの要素がユーザーにとって最高のサービスになっているようにしたい。このブースもそう。ここを通じて『Cygamesはお客さんに感動してもらうことを忘れていません。僕たちが提供したいのはこういう世界です』と意思表示をするつもりでつくりました」。
取り組んでいるうちに、効率やROIのことはすっかり忘れていたと春田さんは笑う。だが、ゲームづくりと同じ情熱で取り組んだ結果、ゲームと会社双方へのブランディング効果が大きかったと感じている。「今すぐゲームプレイヤーが増えるわけではありませんが、今後の施策の一つひとつの効きがかなり違ってくるのではないか、という予感があり、期待しています」。
ゲームショウではオーケストラによるゲーム音楽の生演奏も行われ、ここから「地方で巡回してほしい」といった声も寄せられている。この展示が、新たなユーザーとの絆を生むきっかけにもなりそうだ。
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