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楓セビルのアメリカンクリエイティビティ NOW!

あるクリエイティブの誕生 PJペレイラ

文・楓セビル


SFコメディ「パワー・インサイド」

マスタッシュ(口髭)か、ノーマスタッシュ(口髭なし)か。いま、若者が集まるソーシャルメディアで、こんな会話がかしましい。「The Power Inside」なるキャンペーンがその原因だ。8月から始まった6回連続のこのWebビデオは、今年カンヌライオンズで3つのグランプリを獲得(02)した「The Beauty Inside」に次ぐインテルと東芝のキャンペーン。第1弾「The Inside Experirnce」のスリルに満ちたリアルタイムミステリー、続いて「TheBeauty Inside」のラブロマンス、そして今回はSFコメディだ。地球上のすべての人間の顔に口髭を貼りつけるために、宇宙から地球に舞い降りた「ヒゲ虫」。それに襲われた人間は、「ユーリックス」と呼ばれ、身も心も異星人の味方となる(01)。ビデオでユーリックスを演じるエキストラは、「The Beauty Inside」のときと同じように、ソーシャルメディアで募集。数千人が応募している。



ニュービジネスモデル登場

言うまでもなく、このキャンペーンも前2作品と同じようにサンフランシスコの新進気鋭の広告会社Pereira O'Dell(ペレイラ&オデール)の作品だ。数々の賞を総なめし、一作毎に新しいジャンルや工夫を提供するPereira O'Dellに注目している広告人は多いが、「The Power Inside」にもいくつかの注目すべき新たな工夫が登場している。一つは、Webサイトを開くと、表示される言語がその国の言葉に自動的に変わること。もう一つは、新タイプのプロダクトプレースメント。インテルと東芝のキャンペーンでありながら、その中にはこの2社と全く関係のない他の企業のブランドが登場しているのだ。スカイプ、スカルキャンディ、フォッシル時計、デジタル音楽サイトのスポッティファイなど。若者ファンの多いこれらのブランドのソーシャルメディアで、このキャンペーンを取り上げてもらうことが目的だそうだが、こういった二重、三重のプロダクトプレースメントはこれまで例がない。ファーストカンパニー誌は、「ちょうど鼻髭の下にユーリックスが隠れているように、このキャンペーンにはブランドコンテンツの新しいビジネスモデルが隠れているようだ」と評している。

02 「The Beauty Inside」は今年のカンヌライオンズで3部門のグランプリを受賞。

書けて、描けて、プログラムして...

Pereira O'Dell を米国の最もクリエイティブな会社にしているのは、同社のCCO、PJ ペレイラ(以後PJ)である(03)。1974年、ブラジル生まれ。母親は政治ジャーナリスト、父親は経済評論家。経済的にも、知的環境にも恵まれた幼年時代を送っている(04,05)。「現在の僕は、自分の周りの家族や親戚から大きな恩恵を得てできあがったのだ」とPJが言うように、クリエイティビティはアーティストでもあった父親から、リスクを取る度胸と好奇心は母親から受け継いだ。だが、彼に最も大きな影響を与えたのは、彼にコンピュータを教えた叔父。「小学生だった僕の楽しみは、文章を書くこと、ドローイングすること、コンピュータでプログラミングをすることだった」。静かな、夢見がちな子どもだったという(06)。

16歳のとき、テレソフトというリオデジャネイロのソフトウエアの会社のプログラマとなった。ある日、社長が、コンピュータスクリーンに載せる広告のアイデアをあるクライアントに売り込んだ。いまだインターネットのない時代だったから、馬鹿げたアイデアだったが、とにかく「雑誌や新聞、テレビ、ラジオ媒体には対抗できない、コンピュータだけにできる広告を考えてくれ」と頼まれた。それでPJは「ブランドを主人公にしたコンピュータゲームを考えた」。ゲームは大ヒットした(07)。

大学ではビジネスを専攻した。「何をするにもビジネスセンスが必要だと思って」とPJ。在学中、疼くような創作意欲に駆られて、たくさんの絵を書いたが(08)、同時にアメリカで流行っていた“リエンジニアリング”をテーマにした本も書き、ベストセラーになった。そこで、大学からMBAコースを教えることを依頼された。「まるで子どもが大人を教えているような感じだった」と言う。

1998年。PJにとって最も重要な年となった。ワールドワイド・ウェブが一般に公開されたのだ。PJは興奮した。そして、自分の4つの才能――書ける、描ける、プログラムできる、ビジネスを知っている――を全部生かせる仕事は何かと考え、それが広告だと悟った。そこで、ブラジルにあった3つの広告会社に「インターネットの広告が始まる。僕にはそれを可能にする能力がある」というEメールを送った。サンパウロのDM9という広告会社から採用の返事が来た。まだ21歳で、大学も半年残っていた。だが、彼は躊躇しなかった。ただ一つだけ問題があった。その年、愛する父親が急死したのだ。「家族を置いてサンパウロに行くことはできない」と仕事を諦めかけているPJに母親が言った。「何言ってるの。その仕事はあなたに最適です。すぐに行きなさい」と早速荷造りを始めた。

この母親の判断は間違いではなかった。PJはこの会社で生涯のメンター、ニザン・グアネス(現在、Pereira O'Dellの親会社ABCグループの会長)に出会っている。「僕の人生は映画『フォレスト・ガンプ』のように、常に運がいい」とPJ。

翌年、カンヌがサイバー部門を新設した。PJは社長に言った。「今年はこの賞を獲ります」。社長は若者の顔を見て「気でも狂ったのか」とただ笑った。だが、PJは本気だった。早速作品を作り、カンヌに応募。その年、作品はサイバーライオンを受賞した。同時にDM9はカンヌのエージェンシー・オブ・ジ・イヤーに選ばれた。

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21世紀の新たなモデル カンヌグランプリ3つを獲得したPereira O‘Dell

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