出版・メディアで仕事をする人にとって必要な能力のひとつ「編集力」。しかし、ビジネスの世界の意思決定はすべて適切な情報編集の先にあると考えると、広告・マーケティングの領域においても、表現力だけでなく情報の取捨選択・整理といった編集力が必要なのではないでしょうか。本連載では、出版業界の編集者の方はもちろん、広義の意味で編集力を生かしている方に、編集術に対する考えを聞きます。
光川貴浩が考える「編集」とは
☑情報を取り扱うすべての人が行っていること
☑マネージャーであり、ディレクターであり、プロデューサーであること
「編集者」とは、
“情報”という価値あるものを扱う
すべての人を指す言葉である
モノそのものではなく、情報単体に価値が付く時代へ
京都の出版社や編プロを経て、現在はバンクトゥという会社を経営する傍ら、関西で活躍する同業者とともに関西編集保安協会という編集者のコミュニティも立ち上げました。バンクトゥでは、「編集」という職能をベースにして、主に関西地域のメディアや企業、自治体、大学などの情報発信やクリエイティブを担っています。京都に拠点があり、街のポートフォリオである文化芸術、教育、観光領域の依頼が多いです。
「『編集』という職能をベースに」と言いましたが、メディアに限らず、イベントや体験、街、あるいは経営を編集することもあります。
こう聞くと、そもそも編集とは何かという疑問に行き着く方も多いのではないでしょうか。私は編集を、「情報設計によって、あらゆるモノやコトにはらんでいる課題発見および問題解決、あるいはまだ捉えられていない問題を提起するためのツール」として捉えています。こう考えるようになったのは、“情報”への考え方が大きく変化したからです。
私も書籍や雑誌の編集を経験しましたが、情報業である反面、実際に売買しているのは“物質”です。
ですが、今はWebやSNSを主戦場とした高度情報化社会に移り、工業化社会の名残りがあった書籍や雑誌のような「モノ」を売買する時代から遠ざかりつつあります。モノがモノとして価値を持つ時代から、モノに情報が付帯されることで価値を有したり、情報が情報単体で価値を持って売買されるようになった。
「情報」というものの価値が変容したことで、情報を商売道具としていた編集者の役割や、編集そのものが広く捉えられるようになり、メディアだけではなく場や街、経営などにも「編集」という言葉が用いられるようになったのだと考えています。
高度情報化社会ではエンジニアも編集者である
数十年も前に今の情報化社会を予見した梅棹忠夫氏は、『情報論ノート』の中で「これからの技術者は『エンジニア』というルビではなく...