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クリエイター「私の編集術」

編集という行動を言葉にした途端 拡張の可能性は止まる

佐渡島庸平氏(コルク)

出版・メディアで仕事をする人にとって必要な能力のひとつ「編集力」。しかし、ビジネスの世界の意思決定はすべて適切な情報編集の先にあると考えると、広告・マーケティングの領域においても、表現力だけでなく情報の取捨選択・整理といった編集力が必要なのではないでしょうか。本連載では、出版業界の編集者の方はもちろん、広義の意味で編集力を生かしている方に、編集術に対する考えを聞きます。

    佐渡島庸平が考える「編集」とは

    ☑具体的な言語化が難しいもの

    ☑存在価値を発揮しながら、存在を消す行動

    ☑「何もしないこと」が大事

編集という行動を言葉にした途端 拡張の可能性は止まる

良い編集者であることと良い経営者であることは同じ

私にとって編集とは、言語化が難しい職業であり、アクションです。あえて、言葉にするならば「情報の順番工学」だと考えています。情報を集めて、削って、並び替えて、補足すること。要は情報のプリコラージュです。この4つのアクションを何度も繰り返し行うことで、世の中の見方を変えるものをつくることが編集なのだと思います。

では、良い編集者とはどのような人なのか。私にとって、良い編集者であることと、良い経営者であることは同じです。

編集者は作品を生み出す作家をサポートすることが仕事ですよね。ですが、編集者の最大の役割は、作家をサポートしていく中で、編集者自身がいなくなっても大丈夫なように作家ヘ働きかけることです。つまり、最終的に自分がいなくなっても、作家自身が自走して良い作品を生み出すことができ、売ることができるように、常に作家へ働きかけておくことが求められているということ。経営者も同じです。自分がいなくなっても、今いるメンバーだけで会社が上手く回るようにすることが最終的に求められる役割ですよね。

つまり、編集者と経営者の共通点は、自分の存在価値を発揮しながら、その存在を消すという矛盾したアクションが必要であることです。同時に真逆の方向に進んでいくと言いますか。それゆえ、とても言語化するのが難しい存在だと思います。

そしてもうひとつ、編集者の役割として大事なのが「何もしない」ことです。メディアの編集者は物語をはじめとしたコンテンツを生み出すところに関わっていますが、もちろん原作者ではありません。たしかに、その作品の企画が走り出す、そして実際に走っているときに、編集者は必要な存在なのですが、そこで“何かをして”はダメなんです。具体例を出すならば、実際に作品を書いてはいけないということですね。

企画の中で化学反応を起こすきっかけを与えるのは編集者なのですが、実際に手を動かしてしまうと原作者になってしまう。だからこそ、何もしないままに存在意義を発揮することが大切なんです。

漫画であれば編集者と作家の1対1の関係性ですが、アウトプットの形や企画が変われば、デザイナーやエンジニアなど多岐にわたる方々と進めていく必要があります。これは...

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