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経済学の視点

行動経済学が薦めるナッジの処方箋

依田高典氏(京都大学大学院)

世界各国の政府に広がるナッジを活用する動き

2017年に、ノーベル経済学賞がアメリカのシカゴ大学のリチャード・セイラーへ単独で授与されるニュースが発表された時、いささか驚きが駆け巡った。セイラーは、カーネマンやトヴァスキーに大きな影響を受け、言わば追っかけのように行動経済学研究を始めた。賞を与えるなら、カーネマン授賞の時に同時授与することもできたし、もし2017年に賞を出すなら、もっと新しい成果を挙げている若手研究者もいたからだ。

受賞理由をつぶさに検討すると、セイラーが提唱していた行動変容のための仕掛けである「ナッジ」が高く評価されたようである。ナッジとは、「ひじで突っつく」という意味で、人が何かを選択をする際、よりよい選択につながるよう促す工夫だ。

ナッジが最も効果を発揮したケースが、臓器移植の同意だ。臓器を摘出するには2つの方法がある。ひとつは死亡した人が生前、臓器移植に同意すると意思表示している場合に限り、その臓器を摘出できる「オプトイン方式」。もうひとつは、生前に反対意思を表示していない場合に摘出できる「オプトアウト方式」だ。日本は前者を採用している。

人間が合理的に行動する存在ならば、どちらの方式でも同意率は同じになるはずだ。しかし実際には、デフォルト(選択肢の初期値)の回答を...

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