SNSの声は、本当に日本の縮図?ネット言論の代表性を問う
日本でも利用者が増すSNS。企業がマーケティングにSNSの声を活用したり、炎上に対応したりといったケースもよく見られているが、SNSで発信されている声を日本の世論の縮図ととらえることに問題はないのか。ネット炎上、コミュニティなどを専門分野とする評論家の真鍋厚氏が、現在の日本におけるSNSの声を説明する。
ネット世論と広告炎上
炎上した広告の中でも多く見られる事例が、ジェンダーの視点から批判を受ける広告。ジェンダー論を専門とする瀬地山角氏は、昨年5月にジェンダーの観点から炎上したCMについて考察した書籍『炎上CMでよみとくジェンダー論』を発行。書籍の中でも提示されている「炎上のパターン」を基に、瀬地山氏がこれからの広告制作に必要な視点を解説する。
☑ジェンダー視点での炎上広告を4象限に分類。
☑賛否の差は「現状の追認」か「半歩先」か。
☑ジェンダーへの意識と知識が広告制作には必要不可欠に。
ここ数年、企業のCMや自治体のPR動画が炎上し、メディアに取り上げられることが増えています。その背景にはやはりインターネット、SNSの普及があるのは間違いありません。
昔はテレビをつけている時以外にCMに触れる方法がなく、問題とされるCMがいつ放映されるかは視聴者にはわからないため、そのCMを見るために録画すること自体が難しい状況でした。しかし、いまでは誰でも動画にアクセスでき、繰り返し見ることができるようになっているため、該当のCMをより多くの人が見られる状態にあると言えるでしょう。
CMや動画を見て抱いた不快感も表明しやすくなりましたし、その不快感に対して賛同や共感を集めるしかけもネット上に生まれています。ひとりの不快感や嫌悪感、疑問はネットを介することであっという間に広がり、企業や自治体も無視できない大きな声となります。
炎上したCMにも賛否あり、私自身、見ていて「ユーモアとしてアリなんじゃないか」と思うものも少なくありません。表現物は受け手によって反応が分かれるものなので当然なのですが、中には看過できないものもあります。
私の場合、広告が炎上するたびに取材を受けることが多くなりました。そして「またか」と思ってコメントしているうちに、その炎上にはパターンがあることが見えてきました。そしてそのパターンをベースに拙著『炎上CMでよみとくジェンダー論』(光文社新書)を昨年5月に上梓。その中でジェンダーに関して批判を浴びたCMについて、【図表1】のような4つに分類をし、かつそれぞれの分類に対して、批判を受けなかったCMについても紹介しています。
詳しくは拙著をお読みいただきたいのですが、簡単に図の説明をさせてください。
まず、第Ⅰ象限は、女性を応援したつもりなのに性役割の固定化・強化と受け取られ炎上したパターンです。味の素のテレビCM「日本のお母さん」篇はまさにここに分類されるもので、「ご飯は母親がつくるもの」と描き、性役割分業を疑問視することなく肯定・助長してしまっています。逆にサンヨー食品「サッポロ一番」の「鍋スープ&〆のラーメンセット」篇は、お母さんをフリーな状態にして残業を可能にし、お父さんでもつくれる商品であることをアピールしたこのジャンルでの成功例と言えるでしょう。
第Ⅱ象限は、女性を応援したつもりなのに容姿や外見の面で「性差別」と受け取られ炎上したパターンです。化粧品メーカーなどが、ここで地雷を踏んでいます。
化粧品メーカーやファッション関連の企業は、自社の商品やサービスの魅力や優位性を訴えるうえで、「若さ」や「美しさ」を是とする物語を描かざるをえません。しかし、あまりにそれを強調しすぎると、選ばれる対象としての女性の生きづらさを前景化させてしまう。「政治的に正しい」CMをつくるのが難しいゾーンと言えます。
第Ⅲ象限は、制作側は一般にも受け入れられると思ってつくったのですが、性的メッセージが強く、男性の願望の表出となっていたため炎上したパターンです。
「一般受け」ではなく、少しエッジを効かせようとしたものもあるのですが、いずれにせよ内容が男性の欲望の表出であり、結果として主に女性から批判をされました。
以前は、露出度の高い女性が登場する広告は珍しくありませんでしたし、少し前まで居酒屋の壁には水着姿の女性が微笑んでいるビールメーカーの...