今年3月に発表された「2019年 日本の広告費」(電通)では、インターネット広告費が初めてテレビ広告費を追い抜き、最も多くの売上を誇るメディアの座へと躍り出ました。広告戦略の主役となったインターネットですが、誕生から日も浅く、まだ広告としての進化の必要があることは否定できません。今、インターネット広告が抱える課題とは?そして、その課題を解決するためにプラットフォーマー、クリエイターは今、どんな取り組みをしているのか?LINE、Twitter、TikTokそれぞれで広告商品を扱う担当者と、ネット広告を中心に活躍する広告クリエイター2名で座談会を行いました。

LINE
マーケティングソリューションカンパニー
カンパニーエグゼクティブ
菅野圭介氏
2008年に Google Japan に新卒一期として入社。2014年にFIVEを設立、代表取締役CEOに就任。スマートフォン向け動画広告プラットフォームを開発・提供。2017年12月にLINEグループに参画し完全子会社化。2019年よりディスプレイ広告・公式アカウントの事業企画を担当。

TikTok Ads Japan
X Design Center
クリエイティブディレクター
市川典男氏
幼少期に家族で米国に移住したが、2019年にTikTok Ads Japanへの入社を機に帰国。これまでTBWA/Chiat/Day LA、Wunderman Thompsonなどでアートディレクター兼クリエイティブディレクターを務め、Microsoft Xbox、Disney、Honda、Visaなどグローバル企業のブランドクリエイティブを担当。現在はグローバル規模の広告プロジェクトに携わる傍ら、TikTokのソリューションもつくり上げている。カンヌライオンズ、クリオ賞、ウェビー賞、エフィー賞など。

Twitter Japan
Twitter Next Japan
マネージャー
橋本昇平氏
あらゆる企業のマーケティングに最適なTwitter上のオーディエンスや会話を見つけ出し、企業のマーケティングに生かすコミュニケーション戦略を推進するチームを統括。2014年7月、Twitter Japanにブランドストラテジストとして入社。入社以前は、広告会社にて国内外の広告主のマーケティング戦略立案業務に従事。

MEDIATOR
代表取締役
オノダタカキ氏
メディアクリエイティブエージェンシーMEDIATOR代表取締役。SNSプラットフォームごとに最適化されたクリエイティブの研究開発を実施。自称日本一若年層マーケティングに詳しいクリエイティブディレクター。

PARTY/ヤフー/電通デジタル
クリエイティブディレクター
中村洋基氏
1979年生まれ。電通を経て、2011年PARTY共同設立。国内外250以上の受賞歴があり、バナー広告ではCTR33.3%の記録がある。ヤフーMS統括本部ECD、電通デジタル客員ECD、予防医療普及協会理事。TOKYO FM「澤本・権八のすぐに終わりますから。」進行役。
いま企業が直面する課題 ミッドファネル層を見誤らない
菅野:私はLINEでBtoB向けのソリューション企画の統括をしています。学生時代は広告に楽しいイメージがありましたが、今は「ネット広告って嫌われ者だよね…」と言われる機会が多くなりました。その原因は、短期的な売上を追い求めた結果、アドフォーマットがユーザーからすれば、強引な入り方になってしまったこと、そしてまだ発展途上のため広告審査が甘いことだと思っています。
不快と思われるようなクリエイティブやアドフォーマットであっても0.1%の人がクリックしている事実があるから、やめられなかったという側面もあったと思います。しかし成果が出ているから良しとするのではなく、そこでユーザーのより良い体験のために踏み止まれるかはメディア側、プラットフォーム側の責任だと考えています。そこでLINEではアドフォーマットと広告審査については厳格に実施するようにしています。
橋本:私はTwitterで、広告主に対してどのようにTwitter広告を使えばよいのかのコンサルティングをしています。Twitterにおける広告商品開発の基本姿勢は、パブリックカンバセーションを尊重すること。Twitterのユーザーはいま、リアルタイムでどのような会話をしているのかを知るために見ています。そこで広告だろうとオーガニックの投稿だろうと、Twitter上の“会話”には常にユーザーにとって新しい発見があることが重要だと考えています。
またタイムラインに関心に沿うものを表示するため、Twitterでは、どのようなコンテンツに反応したか、フォローしているかといったものをターゲティングの指標にしています。直近では実験的に「トピック」という機能を実装して、アカウントではなく好きなトピックをフォローしてもらい、それを指標としてターゲティングの精度を高める努力をしています。
市川:私は、以前はアメリカで広告の仕事をしていましたが、現在はTikTok Ads Japanのクリエイティブディレクターとして、各国のクライアントや広告会社とクリエイティブソリューションや戦略を考えています。
SNS広告の課題は、ユーザーが本音を発信している場だけに、広告の嘘っぽさが際立ってしまうこと。もっとリアルに、ナチュラルに人の心に響く広告やキャンペーンが求められているのではないでしょうか。そこでTikTokでは、UGCのキャンペーンで音楽やゲームなどでユーザーの心に響くエモーショナルなコミュニケーションを推奨しています。
橋本:これは、他のプラットフォームにも共通していることだと思いますが、ユーザーと企業が同じ場に、同じ立場で存在しているというのが、これまでのマスメディアとの違いで面白いところですよね。
嫌われる理由はミスマッチ SNSでは自分ゴト化が不可欠
オノダ:「ネット広告が嫌われる」という理由のほとんどが、ユーザーとのミスマッチだと思います。そこで時間軸、人軸、演出軸のマッチングのテクノロジーで解決していけるとも考えています。
僕はダイレクト広告もブランド広告も両方手掛けてきましたが、どちらも一概に「広告っぽい広告は嫌われる」とは思いません。バンパー広告はコンバージョンするのですが、それは嫌われていないからだと思います。未来のマッチングテクノロジーがもっと進化して、より良いタイミングやユーザーの感情を高精度で取れるようになったら、今よりは嫌われない広告になるのではないかと思います。
中村:広告商品は枠にすぎず、命を吹き込むのは、クライアントやクリエイターです。消費者は広告の枠に興味があるわけではなく、広告を広告だと思って見ているわけではないんです。つまらなかった時に「なんだ、広告か」と思うけれど、面白いコンテンツや盛り上がっているコンテンツを見れば自分も輪に入る。その線引きは時流や媒体の特性やユーザーによって流動的に変わっていくけれど、そこをバランス良くつくっていけば愛される広告になると考えています。
また、先ほど菅野さんがおっしゃったように、多くの人が使うプラットフォームであればあるほど、質を担保する仕組みが下支えとして重要になると思います。
オノダ:今、クリエイターがやるべきこととしては、どのプラットフォームにどのような人がいるかを把握してその場に適した作法で発信するということ。SNSは、自分が知りたい情報を発信する人をフォローして自分の箱庭に集めている状態です。その箱庭にマスクリエイティブを流すのは不適切だと思います。
中村:マスクリエイティブをそのままリサイズしてネットに流してもうまくいかないということは、何年も前から言われてきましたが、その問題は完全に顕在化したと感じます。
今は、リアルやナチュラルなものしか見てもらえないからです。「自分と関係なさそう」というものは秒でスキップする時代になりました。テレビは、チャンネルを変えない限りは強制的に世界観の中に入る力がある。リアルでないストーリーでも、最後に共感が取れれば良いんです。けれども...