ユーザーの関心に沿った広告だけが配信され、アドエクスペリエンスの質の向上につながるはずのターゲティングの技術が、ユーザーからすれば時に追いかけまわされているようにも感じてしまうネット広告。ネットでのアドエクスペリエンスを考えるうえで外せない「ターゲティング広告」の現在の問題点と、今後必要な視座について考えます。
企業と生活者の間に生じるディスコミュニケーション
私はネット広告を含むデジタルマーケティング業界のリサーチおよびビジネス開発をしているため、日々膨大な数のサイトを見ていますし、生活者としてもネットを使うため、広告に触れる機会も多いです。私は仕事柄、広告データ活用の仕組みを理解しているため、生活の中でもネット広告を受け入れています。
しかし、私が幹事社メンバーとして携わっているData Driven Advertising Initiative(DDAI)が提供している共通オプトアウトサイトには日々、ターゲティング広告を嫌がり、広告システム群を一斉にオプトアウト(ターゲティング広告の停止)しようとする人々が一定数います。
DDAIのアンケートによると、オプトアウトする理由は、データ収集されることの気持ち悪さだけでなく、同じ広告が表示される回数や、自身の興味と広告内容のミスマッチがほとんどです。しかしオプトアウトすると、広告システム側でユーザーの同一性を識別できなくなり、かえって同じ広告が何度も出てしまう、内容のミスマッチが起きる可能性が高まるのです。つまり生活者はターゲティング広告を含めネット広告への理解度は高くなく、広告システムを利用する広告主企業と生活者間でディスコミュニケーションが生じてしまっているのです。
ユーザーのアドエクスペリエンスは、①広告主が提示する情報・伝え方と、②ユーザーの状態の掛け合わせで決まります【図表1】。
テレビCMなどのマス広告では、①が中心で、②のコントロールは限定的でした。しかしネット広告では配信設定により、②の「広告をどこで、誰に、何回見せるか」を完全にコントロールすることができます。特にターゲティングは、広告を見せる場所と相手の選択に関係します。
よく言われる「追いかけられているようで気持ち悪い」というのは...