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私の広告観

人間が言葉の力を鍛えることでAIと共生する魅力的な社会がつくられる

国立情報学研究所 新井紀子

ここ数年、AI(人工知能)ブームは過熱する一方で、企業がAI導入を検討することは最大の関心事といっても過言ではない。これからの未来社会はどう変わり、私たちはどう生きていけば良いのだろうか。数学者の新井紀子氏が、AIと共生するための未来を読み解く。

新井紀子(あらい・のりこ)さん
国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学卒業、イリノイ大学大学院数学科課程修了。博士(理学)。専門は数理論理学。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを務める。2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。主著に「生き抜くための数学入門」(イーストプレス)、「コンピュータが仕事を奪う」(日本経済新聞出版社)、「AI vs 教科書が読めない子どもたち」(東洋経済新報社)など。

AIロボットは東大に合格できるか 5年越しで挑んだ大プロジェクト

昨今、社会から注目を集めているキーワードのひとつが、AI(人工知能)。その浸透がもたらす社会変化には、特に関心が集まる。「AIが囲碁や将棋でプロに勝つ」「AIが文学賞で一次選考を通過する」「小型無人機ドローンを活用したアマゾンの宅配サービス」「Googleの自動走向車」など、AIに関わる話題は尽きることがなく、さまざまな市場を大きく揺さぶっている。

そうした中で、AIブームが起こる前から数学者の立場でAIに注目していたのが、国立情報学研究所教授 同社会共有知研究センター長の新井紀子氏だ。新井氏は一橋大学で法律学を研究し、イノリイ大学で数学を専攻。本格的に数理論理学の研究を始めたのは、専業主婦を経てからという、異色の経歴をもつ博士だ。

「2011年から、ロボットは東京大学(東大)に入れるかという人工知能のプロジェクトを立ち上げました。2016年までの5年間で有名私立大学に合格させることを目指し、2021年に東大に合格することを最終到達点と設定しました」。

このプロジェクトは通称「東ロボプロジェクト」と呼ばれ、国立情報学研究所が中心となり、国内最大級の人工知能研究として知られ、100人以上の研究者が携わった。最大の狙いは、東大合格を果たすこと自体ではなく、「AIにはできないこと」を明らかにすることだったという。

「近いうちに米企業主導でAIが日本にやってくると予測される中で、AIへの幻想だけが膨張する可能性があることを私たちは懸念していました。むしろ、何ができないか、を知ることの方が日本におけるAIの活用促進につながるのではないかと考えました。また、産学連携してAIの可能性と限界を探ることで、日本全体のAI技術リテラシーを高めたほうが、企業もAI投資の方向性を誤らずに済むでしょう。本プロジェクトでは結果的には5年間で東西の有名私立大学に合格できる成績を出しましたが、東大には入学できないという非常に妥当な結論に至りました。こうした結果をきちんと社会に公開できたことが一番の収穫だと思っています」(新井氏)。

図 「読む」力を測るリーディングスキルテストの問題例

AIにできないことを知ると人間に何が必要かを理解できる

新井氏によると、東ロボプロジェクトを通じてわかったのは、「AIは深い言語処理が苦手である」という事実。最近のAIは、音声対応技術などでも言葉を理解できているように見えるが、実際には意味や意図を理解できていないのだという。

「AIはコンピュータのソフトウェアですから、"統計"から成り立っています。AIの導く回答や判断は、過去の蓄積データである統計や確率に基づくもの。意味がわかっているのではないのです。人間が日常で使う比喩的な表現や、曖昧な意味は全く理解できません」 …

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