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私の広告観

舘鼻典孝さんが明かす「モノづくり」へ懸ける思いとは

舘鼻則孝

自身の大学卒業制作で発表した「ヒールレスシューズ」が米歌手のレディー・ガガさんに注目され、彼女の専属靴シューメイカーとして活躍した舘鼻則孝さん。創作活動は自分にとってのコミュニケーションツールと語る、舘鼻さんがモノづくりに懸ける思いとは。

舘鼻則孝(たてはな・のりたか)さん
1985年生まれ。東京藝術大学では絵画や彫刻を学び、後年は染織を専攻。卒業制作であるヒールレスシューズは花魁の下駄から着想を得たものである。作品は、メトロポリタン美術館など、世界の著名な美術館に永久収蔵されている。近年はアーティストとして展覧会を開催する他、伝統工芸士との創作活動にも精力的に取り組んでいる。

言語の壁を越えて伝わる 創作活動はコミュニケーション

花魁文化などの日本の伝統的な文化を、前衛的なファッションに置き換えてアバンギャルドな現代のファッションとして蘇らせた舘鼻則孝さん。ファッションの領域に留まらない作品づくりを行う舘鼻さんにとって、モノづくりはコミュニケーションの手段だという。

「言葉で伝えるダイレクトなコミュニケーションもありますが、僕らのような作家にとっては、手でモノをつくる創作活動がコミュニケーションの手段です。物理的な作品というモノがコミュニケーションツールとなって、発信や共有するための装置になっていく。そういう意味では、レディー・ガガさんの『ヒールレスシューズ』から始まった僕の創作活動は、届けたい対象に近しいモノを選んでいるので、靴だけでなく彫刻作品であったり、文楽公演だったりと、コミュニケーションの手段は多様化しています」。

モノづくりへの思いは、自身の幼少期から培われた。舘鼻さんの母は実家で人形づくりの教室を開いて講師をしていたことから、舘鼻さんにとっては道具や刈り取られたばかりの羊毛が身近にあることが自然の環境だった。手でモノをつくったり、素材が紡がれて、人形やニットになったりする過程を常に見ていた舘鼻さんは、こういったことが自分の原点になっているという。

母から「好きなものや欲しいものがあるなら自分でつくりなさい」と教えられた舘鼻さんは、おもちゃで遊ぶという行為も、つくるところから始まっていた。つくる過程が遊ぶことに変わり、モノづくりの精神が培われて、手でつくることが当たり前になった舘鼻さんは、どうつくるかの過程を考えることがクリエイティビティなのではないかと話す。

「そうした環境に加え、小さい頃は特に内気な性格で、人とコミュニケーションを取ることが苦手でした。そんな僕を助けてくれたのがモノづくりでした。小学校でも、僕は美術の時間だけはヒーローだったんですよ。先生に褒められて、同級生にも認められて、そういうときに僕は自分の居場所を実感することができた。自分にとってはモノづくりが発信の手段だったのです。芸術の世界が自分の存在を証明してくれる、コミュニケーションツールだったという気がしますね。それは今も変わりません。例えば海外から靴を注文してくれる方とのコミュニケーションツールは作品そのものですし、英語がまったく話せなかったとしてもモノやビジュアルがコミュニケーションツールとして人と人をつないでくれる。それが僕にとっては救いでしたね。言語の壁を越えて理解し合える、言語に置き換わるコミュニケーションツールというのが僕にとってはモノづくりだった。この幼少期があったから今の僕がいると思います」。

作品が成り立つ背景を伝えることがブランディング

モノづくりを身近に感じながら成長した舘鼻さんが花魁文化を研究したのは大学時代。東京藝術大学で工芸科に所属し、染織の勉強をしていた舘鼻さんは、多岐にわたって芸術や文化、伝統工芸を学びつつ、新しい価値観を生み出すようなモノづくりがしたかったと話す。

そこで、自分が専門的に研究していた江戸時代や明治時代の当時の前衛的なモノやファッション、前衛性はどんなものだったのかを考え、ファッションリーダーだった遊女たちのムーブメントに注目。カルチャーの発信地でもあった遊女のいた遊郭が舘鼻さんの考える前衛、つまりアバンギャルドな新しい価値観を生み出すものに近い感覚があったという。独自に派生して生まれてきた文化やファッションが新しいものだと感じて惹かれたと説明する舘鼻さん。

その後、研究を重ねながら、卒業制作ではドレスやヒールレスシューズを制作。そのヒールレスシューズがレディー・ガガさんの目に留まり、大学卒業後の2年間はレディー・ガガさんの専属としてヒールレスシューズを手掛けてきた。

当初は世界で活躍するファッションデザイナーを目指し、そのためには日本人として何をすべきかを考えていたという ...

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