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ツールとともに言葉も変わる。現代における、相手に届く言葉とは

石黒 圭

日本語学や日本語教育と向き合い、研究を重ねる言語学者の石黒 圭氏。言葉のプロフェッショナルから見る、日本人特有のコミュニケーションや言葉との向き合い方について聞きました。

石黒 圭(いしぐろ・けい)さん
1969年大阪府生まれ。神奈川県出身。国立国語研究所日本語教育研究領域代表・教授、一橋大学大学院言語社会研究科連携教授。一橋大学社会学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門は文章論。著書は、『論文・レポートの基本』『形容詞を使わない大人の文章表現力』日本実業出版、『文章は接続詞で決まる』『語彙力を鍛える』光文社新書、『大人のための言い換え力』NHK出版新書など、多数。

外国人向け日本語教育にコミュニケーションのヒントがある

国立国語研究所に所属し、日本語全般に関する研究である日本語学と、日本語教育学という外国人に日本語を教える分野にて4技能(聞く・話す・読む・書く)の研究を行っている石黒 圭氏。日本語学と日本語教育学では、対象が日本語ネイティブスピーカー(母語が日本語)と外国人(母語が外国語)という違いから、同じ日本語でも内容は異なるものだ。

「日本語ネイティブスピーカーは、日々日本語を話していることもあり、文法と語彙を無制限に使い相手とコミュニケーションを取っています。一方で、外国人を対象とする日本語教育学のなかには『やさしい日本語』というものがあります。これは、日本語があまりわからない外国人の方でも災害時に必要な情報が得られるように考案された日本語のことです。相手に情報が伝わることが第一になるため、限られた文法や語彙などの中で適切なコミュニケーションを行っていくことが重要となります」。

しかし、日本語ネイティブスピーカーにも日本語教育の知見が活用できると石黒氏は話す。

日本語ネイティブスピーカーは無制限な文法と語彙を使えるとは言っても、年齢や所属している環境などでも、理解力は人それぞれ差がある。相手の理解に寄り添って、「この人はどういう理解をするのか」を考えて発信することは日々の生活においても重要になる。相手に伝えたい情報を届ける広告でも、一人ひとりの読み手が文章をどのように受け止めるかを常に意識することが大切だと石黒氏は主張する。

知っている語彙の多さより 使いこなす運用力が大事

東京2020オリンピック・パラリンピックが近づくにつれ、ますます訪日外国人の増加が見込まれる日本。石黒氏によると海外では日本人が思っている以上に日本語教育が普及しているという。

「海外から来日し、現地で日本語を使ってみたいと思って学んでいる方も多くいます。外国人だから英語で話さないといけないと考えるのは幻想です」と石黒氏。日本人は無理に英語で話そうとしたり、英語が話せなくても日本語と英語を組み合わせて「フロント(前)に見えるビルディング(建物)のコーナー(角)をレフト(左)します」のように伝えがちな傾向があるという。

しかし、これではかえって伝わりにくい。それよりも、基本的な日本語の語彙を使い、単純に「あそこに建物があります。その建物の前の道を左に曲がります」のように、短く簡潔な文にしたほうが伝わることも少なくない。

「例えば、『あります』という文型を見ると、『ライターあります?』と聞かれたら『火を貸してください』の意味になりますし、『時計あります?』は『何時ですか?』という意味になります。『時間あります?』は『あなたと話したい』という意味にもなりますよね。それぞれ文脈や場面に合わせて意味が異なってきます。限られた言葉しか使わなくとも、伝えられることが多いのが日本語の特徴。この特徴を知って活用できるようにすることが日本語教育の中では重要になります」。

多くの語彙を使いこなせるようにすることも言語教育のあり方のひとつではあるが、それだけでコミュニケーション力が高まるわけではない。大切なのは知っている語彙をさまざまな場面で使いこなせる運用力だからだ。

「さまざまな文脈や場面で言葉を運用できる力を育てることが重要で、そこに日本語教育は役立ちます。もちろん訪日外国人とのコミュニケーションにも、日本人が乏しい外国語力で海外に向かう際も、この短く簡潔に話す力は役立ちます。シンプルな言葉の持つ力を引き出す意味で、日本語を母語とする日本人にこそ、日本語教育を学んでほしいですね」 …

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