ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。
パリの「リトルアフリカ」 移民街に現れる“紳士”たち
フランスは移民受け入れ国として長い歴史があり、「人種のるつぼ」と言われますが、その一方で、移民と非移民(フランス人)の間には歴然とした経済的・社会的格差があります。例えば、パリでは移民の居住地が分離されており、その多くが北西部(18~20区)に位置します。同地区にパリの貧困層の4割が集中すると言われ、治安も決して良くありません。
ピカソやモジリアーニなど多くの芸術家の活動拠点として知られるモンマルトルも18区にありますが、その南東にはアフリカ人街・アラブ人街が広がっており、一歩踏み込むとパリであることを忘れてしまうほど雰囲気が違います。
今回はこの「アフリカ人街」で、パリジャンからも注目を集める取り組みをレポートします。
アフリカ人街には、色鮮やかなスーツに身を包んだ紳士たちが出入りする「SAPE & CO」という紳士服店があります。ここに集う人々は「サプール(Sapeur)」と呼ばれているのですが、「サプール」とはコンゴでは「ファッションで平和を説く人々」を指します。
貧困と内戦に苦しむコンゴで、所得の大半をブランドスーツに注ぎ込み、エレガントな着こなしと振舞いを追求する彼らの姿勢(ファッション・思想)は近年メディアの注目を集めており、その存在をご存知の方も多いのではないでしょうか。
では、そのサプールがなぜパリにいるのでしょう?サプールのルーツは諸説ありますが、コンゴを植民地支配していたフランスが深く関わっていると言われています。有力なのは社会活動家のアンドレ・マツワがパリで黒人差別反対の運動を展開し強制送還された際、パリ紳士の装いをしていたことがコンゴ人たちの賞賛を浴び、平和信仰が「ファッション」で表現されるようになったという説です。
このため、サプールにとってパリは聖地とも言える場所であり、実際にコンゴのサプールはパリまで買物に来るそうです。同店の客層は、12年前のオープン時は主にコンゴ本国のサプールや同国からの移民でしたが、今では多くのパリジャンからも支持され、フレンチファッションの逆輸入とも言える状況が起きています …