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フランス消費トレンド

隙間時間で文学復興(ルネサンス)、「物語の自動販売機」――パリ発トレンドレポート

山本 真郷(FUJIFILM France)/渡辺 寧(ホフステード・インサイツ・ジャパン)

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

駅に出現した風変わりな装置

パリでの生活が始まり、2カ月が経とうとしています。マロニエやプラタナスの街路樹は色づき、いかにも秋らしくなってきました。「読書の秋」とも言いますので、今回は読書にまつわるビジネスをレポートしたいと思います。

現地での仕事も本格稼働し、外に出る機会が増えつつありますが、パリ市内の移動はもっぱら「メトロ」(地下鉄)を利用しています。安くて便利なのですが、駅構内は大抵汚い上、薄暗く、目に入るのはスナックの自動販売機程度と、駅は電車を乗り降りするだけの空間と言えます。そんなメトロで乗り継ぎをする際、不思議な光景を目にしました。昔のSF映画に出てくるロケットのような形をした装置から「長いレシート」を出しては立ち去る人々の姿です。

この装置は「物語の自動販売機」と呼ばれるもので、電車の待ち時間などの隙間時間に気軽に読める「短編物語」(小説や詩などの文学全般)が厚手のレシート紙に無料で印刷され出てきます。選択できるメニューは「尺」(1分、3分、5分)のみ。例えば「1分」を選択すると、1分位で読み切れる短編が印刷されるという仕組みです。スマホ時代にあって、一見時代遅れに見える状景ですが、違和感を抱くどころかお洒落に映るのはパリだからでしょうか。

文学のエコシステム

同サービスはグルノーブル(仏・南東部)の出版社「Short Edition」が「人々の活字離れ」を危惧して始めたもので、印刷される短編作品は同社が運営する「短編のオンラインコミュニティ」に投稿された作品から選出されています。

投稿数は現時点で8万5千編に及び、コミュニティ内で評価されると「物語の自動販売機」だけでなく、ポッドキャストによる配信や出版の機会が得られます。「物語の自動販売機」は待ち時間が発生する公共機関にとってメリットがあるだけでなく、収益の一部は作家へ配当されるので、まさに文学のエコシステムと言えます。

なぜ、スマホアプリやWebではなくて「紙」の「自動販売機」なのか?考案者の一人であるクリストフ・シビュード氏(CEO)によれば「オンラインから始めたサービスなので、スマホが悪いとは言わないが、紙に印刷されれば情報の渦から遮断され、読書の質はおのずと高まる ...

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