日本企業のマーケティングにおいても、「リテンション」という概念が浸透してきています。「リレーションシップ」「エンゲージメント」といったものは、マーケティングやブランディングにおいてどのような価値・意味があると言えるのでしょうか。また、それらを意識した取り組みを進めていく中で、想定される課題とは。現代日本人の消費行動の視点から、企業に求められるマーケティング活動のあり方を解説します。
マーケティングの概念定義が、「エクスチェンジ(交換)」から「リレーションシップ(関係性)」になったのは1990年代に入ってからです。1980年代までは、マーケットシェア獲得を第一義とする競争戦略を前提にすることが、マーケティングの根底にありました。そこではシェア獲得のために、消費者のブランド選択という形で現れる企業と消費者との交換行為の解明が探求されるべき課題でした。
しかし、購買機会が訪れる度に、消費者はブランド選択に迫られます。交換行為は一回ではなく継続していきます。そこで、一回の交換行為から、継続していく交換行為へと関心が移っていきました。そして、交換行為が継続して埋め込まれる文脈として、リレーションシップという概念が登場してきたのです。
リレーションではなく、リレーションシップです。このシップには、スポーツマンシップに代表されるように精神性が込められています。ですから、リレーションシップに込められる"精神性"を理解する必要があります。それを裏づけるように、これまでのリレーションシップの議論では、この精神性を具体化する「信頼」や「コミットメント」が中核概念として位置づけられてきました。
リレーションシップに期待される2つの価値
リレーションシップに早くから着目していたのは、生産財(B to B)、流通チャネル、そしてサービスの領域です。生産財や流通チャネルでの交換対象は、一般消費財のそれよりも数量的にも金額的にも規模が大きくなります。当然、その分リスクも大きくなります。
また、交換対象がサービスですと、サービス特有の性質(無形性・不均質性・同時性・消滅性)が伴う分、リスクも大きくなります。したがって、交換従事者としては、できる限りこうしたリスクを回避するために、信頼のおける交換相手やサービス提供者を探し求めなくてはなりません。
ところが自由な交換行為を前提とするマーケットには、不確実性が満ち溢れています。交換相手を騙そうとする者や、より良い交換相手を求める日和見主義者も数多く存在します。そうなると、商いの大原則である"caveatemptor"(買い手ご用心)のように …