オウンドメディアの秀逸事例
ここでは、メディアを運営し企画の考案も行っている藁品氏、岡田氏の両名が参考にしているという5つのメディアを紹介します。
今号は「インナー広報におけるクリエイティブ」がテーマとなっていますが、まずは何故今「インナー広報」が重要なのか、ということから考えてみましょう。
最初にお断りしておくと、私は、インナー広報という言葉は今の企業環境に合っていない気がしています。というのは、「広報」という言葉の語感は、「広く報じる」というもの。「インナー広報は会社からのお知らせ」という固定観念を生んでしまう恐れがあるからです。そこで、ここではインナーコミュニケーションという言葉で話を進めていきます。
昨今、インナーコミュニケーションが重視される背景としては、3つの理由があります。
1つ目は、ご存知の通り、企業を取り巻く環境がM&Aを伴うグローバル経営やグループ経営へとシフトしていること。その結果、ベクトル合わせの必要性が生まれ、インナーコミュニケーションが必要となっています。
2つ目は、ダイバーシティの時代であること。経営陣と社員、さらに社員同士も、互いに多様な価値観を理解し合わなければ、働きやすい環境をつくれず、優秀な人材の確保や定着が困難となります。多様な価値観の相互理解を促すコミュニケーションが求められています。
3つ目は、SNSなどを通じて、社員全員が対外的な情報発信者でありうること。社員がどれだけポジティブに自社について発信するか、その影響が極めて大きくなっています。と同時に、ネガティブ情報が流布した場合の悪影響は計り知れません。インナーコミュニケーションが社員満足度に影響し、それが個々の対外的な発信にも影響するという時代になっています。
それだけ、重要度が高いにもかかわらず、インナーコミュニケーションに携わる人材に対する教育は十分に行われているとは言えず、「インナーコミュニケーションの仕事=媒体やコンテンツの制作」であると捉えている人も中には見受けられます。しかし、媒体もコンテンツも手段であって目的ではありません。
それでは、目的は何でしょうか? 私が講師を務める宣伝会議主催のセミナーでこの質問をすると、例えばこんな答えが返ってきます。「社内のコミュニケーションを活性化させる」「社内のベクトルを合わせる」「情報共有」「経営意思への共感と自社への誇りの醸成」などなど。
これ自体は一般論としての目的と合致しています(一般論を知りたい方は、経済広報センター企業広報プラザのサイトなどを見てください)。しかし、重要なことは、自社にとっての目的です。一般論は、抽象概念になっており、それでは問題解決できません。例えば「社内のコミュニケーションを活性化させる」ことを目的とするなら、どういう状態になったら活性化していると言えるのか、具体性のあるところまで落とし込んで定義づける必要があります。
実は業務において意外に忘れられがちなのが、この定義を明確にするというプロセスです。目的を定める場合のみならず、例えば「自分の仕事のミッションは?」「コンテンツを企画するとは?」といった問いを立て、自分なりに定義づけをすることをお勧めします。特別な正解があるわけではなく、具体性のある定義を自ら考え、進化させていくことがとても重要です。
では、私自身がインナーコミュニケーションの仕事をどのように定義しているか、紹介します。
そのためには、図表1 を使って、まず経営というものが、どのようなPDCAで行われているかを見ておきましょう。縦軸に示されたものは、上半分が経営層が描く理想の姿、下半分が結果としての現実。横軸に示されたものは、左半分が定量的なもの、右半分が定性的なものというマトリックスになっています。経営のPDCAは時計と反対周りに回っています。ありたい姿(右上)から数値的な計画を立て(左上)、実行して数値的な成果が生まれ(左下)、数字では表せない状況的な結果が生まれる(右下)。当然、上半分は理想で、下半分は現実ですから、そこには必ずギャップが生じます。ここで注目していただきたいのは、右半分のギャップです。各部門では、左半分のギャップを埋める努力が行われていますが、右半分のギャップにはあまり目が向けられません。理念やビジョン、戦略や経営方針、社員像や行動指針といった理想に対し、現状をとらえ、そのギャップを問題として規定し、理想に近づけるのがインナーコミュニケーションの仕事です。
インナーコミュニケーションの仕事は …