日本唯一の広報・IR・リスクの専門メディア

           

実践!プレスリリース道場

「謎」という言葉を巧みに使い 発売3カ月で70万本を突破

井上岳久(井上戦略PRコンサルティング事務所)

新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。

SNSでの盛り上がりも取り入れ
PRを上手に仕掛けることで
ヒット商品に育て上げた!

今回はちょっと面白い案件を見つけました。皆さん、インドカレー店でサラダにオレンジ色のドレッシングがかかっているのを見たことはありませんか。美味しいけれど、インドカレー店以外では見かけないあのドレッシングを「インドカレー屋さんの謎ドレッシング」と名づけて理研ビタミンが発売したのです。

店頭用POP
店頭用のPOPは、広報で成果があったSNSでの反響をアピールするデザイン。

2023年2月に発売された業務用(1リットル)の開発を始めたのは約2年前。企画部の社員が、「あのドレッシングは美味しいけれど、どこのスーパーにも売っていない」と感じたことが開発のきっかけになったといいます。

その社員が複数のインドカレー店で聞き込みをしたところ、各店が独自でつくっていることが分かりましたが、「インドにもある」という店主もいれば、「インドには存在しない」という店主もいたそうです。私もカレー専門家としてインドには何度も行っていますが、もともと生野菜を食べる文化があまりないため、現地であのドレッシングを見た記憶がありません。まさに謎だらけのドレッシングなのです。

その社員が巡った店舗の中で一番美味しいと感じた店の味を再現しながら野菜の甘みを生かせるよう、通常の2倍近い時間をかけてようやく製品化にたどりついたといいます。

それでは、ここでリリースを見てみましょう。掲載しているのは2023年2月の業務用、7月の家庭用のリリース(営業でも活用しているチラシ)です。

業務用→家庭用の2段展開

(ポイント1)まず、業務用と家庭用と2段階で仕掛けて、話題を醸成しているのがうまいところです。最初に業務用を出して飲食業界を中心に話題をつくった上で家庭用を一般発売するという段取り。一部店舗で家庭用を先行販売し醸成した、SNSでの盛り上がりも上手にリリースに取り込んでいます。

経営企画部広報・IR室長の井上与志也さんによれば、実はそこまで道筋を立てて仕掛けたわけではなく、「業務用の売れ行きが芳しくなければ家庭用は発売しない可能性もありました。ですがSNSで『あのドレッシング売ってるんですね!』『どうしても手に入れたい』などの投稿が相次ぎ盛り上がったので、家庭用を当初の予定より20日ほど前倒しで発売しました」とのこと。世の中が期せずして理想的な反応をしてくれたということです。

(ポイント2)どちらのリリースも1枚で完結しているところも潔いです。その理由はフォーマット化の徹底です。同社では、企画部の企画者本人が書いた元版を広報が手直しする手法を取っています。その方が商品に対する思いが入り、開発のきっかけなど取材で必ず聞かれる項目を入れられるからです。ただ、広報以外の人がリリースを書くと、入れたいことが多過ぎて収拾がつかなくなるのは往々にしてあること。同社でも最初はそうでしたが、何度もやり取りを重ねるうちに、企画者が1枚にまとめられるようになってきたそうです。そうなれば、広報としての業務もスムーズになります。

また、企画者にリリースを書かせることで、何が商品の魅力で、どう表現すればそのよさが伝わるかを考えてほしいという思いもあるそうです。それは即ち、広報目線で商品を見るということ。企画段階からPRしやすい商品かどうかという広報目線を盛り込んでいくという、私の提唱する「戦略広報」にも適っています。

(ポイント3)何よりこの商品の肝は「インドカレー屋さんの謎ドレッシング」というネーミングにあります...

あと61%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

実践!プレスリリース道場 の記事一覧

「謎」という言葉を巧みに使い 発売3カ月で70万本を突破(この記事です)
商品に込めた「思い」も報道 丸亀シェイクうどんのリリース
ビッグワードを使い、旬を狙ったプレスリリース
多様な切り口で海外にも露出 累計38万着のヒットに
読みたくなるタイトルで記事化や取材露出に貢献
ニュース配信サイト用リリースのコツ「プレゼン資料」と捉え要点を効果的に訴求
広報会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する