新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。
構成要素は必要最低限ながら
注目の時流ワードで最大効果を狙う
ハイブリッドなリリース!
2022年11月にアメリカのベンチャー企業が無料公開するや、人間のように自然に回答してくれると話題になった対話式AI「ChatGPT」。現在、どのメディアも取り上げたい特A級のビッグワードであるChatGPTを活用したサービスのリリースを紹介しましょう。
配信したのは経路検索の「駅すぱあと」で有名なヴァル研究所。皆さんも、外出する際の最短経路を調べるときや交通費を精算するときなどにきっと活用したことがあるでしょう。
その「駅すぱあと for web」が、2023年5月にChatGPTを活用して提供開始したのが「お出かけAI(β版)」。温泉やミュージアムなど11個の選択肢から行きたい場所を選び、出発駅・バス停や移動時間の上限、出発日時を設定すると、希望に沿った施設をピックアップし、経路も提案してくれるというもの。1988年に国内で最初に経路検索サービスを提供したといわれる同社ならではの機能です。
企画から2カ月でリリース
企画が持ち上がったのは2023年3月のこと。「旅行の行き先を検討し、計画を立てること自体が面倒」という問題意識から「ChatGPTなら本人が探し出せない行き先も見つけてくれるのでは」という期待がありました。もちろん、ChatGPTという話題のAIを使うことで、駅すぱあとへの関心を高められるという狙いもありました。
ソリューションセールス部マーケティングセールスチーム広報の青木理紗さんは、早い段階で広報に適した案件だと判断。企画当初からかかわり、リリースも準備してきました。そのリリースを見てみましょう。
ポイント1 当然ながらタイトルはChatGPTというビッグワードを前面に押し出しています。メディアが着目するワードを載せることで、記者にとって「読む」判断につながります。このビッグワード効果については後でもう少し詳しく掘り下げます。
メインビジュアルなどの図版は、リリース用に画面画像と文字を組み合わせて社外デザイナーに依頼しているそうです。ポイント2 ビジュアルの文字要素をよく見てもらうと分かりますが、タイトルとほぼ同じ内容です。
人によっては情報が重複していると感じるかもしれませんが、タイトルの内容を再度、視覚的に認識させる効果があります。また、ネットメディアに掲載されたときに「タイトルよりも先にメインビジュアルに目が行く」という青木さんなりの考えもあるようで、私も同意見です。特にITサービスはビジュアルとしてのインパクトに乏しいので、近年は画像と文字を組み合わせたものが主流になっています。
ポイント3 具体的なサービスの使い方も、3つの工程の画面を載せ、吹き出しで補足をすることで、分かりやすく伝えています。
もうひとつ、青木さんがリリース用に用意したのが1ページ目下段のアンケート調査です。前述の「旅行の計画を立てること自体が面倒」という課題は、取引先などとの会話で社員が体感していましたが、リリースに載せるには弱いことから、5月前半に「駅すぱあとアプリ」のユーザーを対象にアンケートを実施し、4271人の回答を得ました。すると6割以上が「計画を面倒だと思ったことがある」「行き先が同じような場所や内容になってしまう」という結果に。「裏付けとなる結果が出てホッとしました」と青木さんは笑いますが、アンケートの手間をかけたことでグッと説得力が増しています。
ビッグワードの旬を狙う
このリリースで最大の注目ポイントは、1枚目の下方にある...