新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。
ビジュアルを上手に活用し、
商品開発の思いを伝えることで
露出記事の深みが増す好循環に
丸亀製麺のリリースは、約6年前にも取り上げたことがあります。海外で入社式が開催されたことを伝えるユニークな内容だったので覚えている読者の方もいるかもしれません。
前回のリリース内容は単に話題性を狙っただけではなく、現地で非常に人気となった海外支店の現場を見学する研修という実用性も備えたものでした。
簡単におさらいすると、ハワイで開催された入社式の画像はすぐに日本の本社に送られ、広報はリリースを整えて即日、夕方のニュースに間に合うようにメディアに配信。
現地で収録された動画もテレビ局などに提供し、『news every.』(日本テレビ)、『Nスタ』『新・情報7daysニュースキャスター』(ともにTBSテレビ)など、複数のテレビ番組でオンエアを勝ち取るという卓越した広報を展開していました。
当時、同社は新規出店ラッシュで正社員の採用に力を入れていました。このPRにはリクルート効果もあり、優秀な学生に関心を持ってもらうだけではなく、その家族が成長企業と認識し安心してくれる効果もあったようです。
取材時に確認してみると、親会社であるトリドールホールディングスとしての正社員数はこの6年で急増しており、意図した通りに成長を遂げているなと感じた次第です。
今回は、そんな丸亀製麺のオーソドックスな新商品リリースを見てみたいと思いました。選んだのは2023年5月に販売開始し、大ヒット商品となった「丸亀シェイクうどん」です。1980年代後半にリリースされた米米CLUBのヒット曲『Shake Hip!』を使用し、総勢130人の出演者がダンスをするインパクトのあるテレビCMが記憶に残っている人も多いと思います。特に曲が耳について離れず、「何のCMなんだろう?」と興味を持った人も多いのではないでしょうか。
開発の起点はドライブスルー
CMのインパクトが強い商品ですが、その裏ではもちろん、リリースをベースとしたPRも効果的に機能していました。「丸亀シェイクうどん」の構想が始まったのは、発売の1年程前。「もともとはドライブスルー店舗の計画があり、車のドリンクホルダーに適したメニューを開発するためでした」と話すのは、同社マーケティング本部コミュニケーション&CXデザイン部の前田美紗都さん。カップに入れるアイデアは、山口寛代表取締役社長の発案だそうです。
開発チームによる試作段階で、商品自体のポテンシャルはもちろん、「うどんをシェイクする」という新しい体験に社内が盛り上がり、「この楽しさを全国のお客さまに体験してもらいたい」と全国展開に踏み切ることに。「丸亀シェイクうどん」はまず全店舗で提供され、その後にオープンしたドライブスルー店舗でも提供されました。
「メニュー開発は、振ることで具材とだしがよく混ざり、美味しくなることを重視して進められました。だしがこぼれないことはもちろんですが、十分に麺とだしと具材が混ざるために必要なカップの高さなども、何回も試作しながら開発していきました」と話すのは、同部署の佐久間幸美さんです。
こうして2023年5月16日に「梅おろしうどん」「ピリ辛担々うどん」など5種類のメニューを準備して販売を開始しました。おすすめの振り方は、蓋をしっかり両手で押さえて、バーテンダーがカクテルを作るように20回ほどシェイクすること。
私も「明太とろろうどん」を食べてみましたが、思った以上にとろろと明太子がだしに混ざり合い、うどんによく絡んでいました。
ではそのリリースを見てみましょう。
(ポイント1)まず1枚目は、タイトルとビジュアルで大胆に3分の2ページを占めています。ビジュアルはCMと連動したカラフルな画像で、非常にインパクトがあります。