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記者の行動原理を読む広報術

トップ発言の炎上を防ぐには 鍵を握る主要メディアへの対応

松林 薫(ジャーナリスト)

トップの発言を抜き出した記事が引用され、失言としてSNSで批判が広まり炎上してしまう――。こうした真意が伝わらない事態を避けるために広報担当者は何ができるのか。会見前、会見中、会見後のそれぞれのフェーズにおいて、察知すべきリスクを整理する。

政府や経済団体のトップが記者会見で語った言葉が、SNSで「炎上」する事例が続いている。岸田文雄首相は内閣改造で登用した女性閣僚について「女性ならではの感性や共感力」を期待すると述べ、ジェンダーバイアスを助長する発言だと叩かれた。経団連の十倉雅和会長は、消費増税や大阪・関西万博についての発言が炎上している。経済同友会の新浪剛史代表幹事も「国民皆保険ではなく民間がこの分野を担っていったらどうか」との発言が誤解を招き、未病領域について語ったものだったと釈明に追い込まれた。

炎上の発火点はどこに

政府や経済団体のトップは政治的発言を求められる。誰もが歓迎する政策というものがない以上、何らかの批判を受けるのは仕方がない。そのことは本人も重々承知だろう。そもそも、批判をおそれるあまり自由な発言ができなくなるとしたら、その方が問題だ。記者会見が台本や想定問答集を読み上げるだけになれば民主主義は形骸化してしまう。

とはいえ、人々に嫌悪感を与える発言がSNSで広がると発言者自身の影響力が低下してしまう。何でもない言葉まで悪意を持って受け取られ、炎上が炎上を呼ぶことにもなりかねない。実際、最近の岸田首相はそうした悪循環に陥っているように見えるし、先に挙げた財界トップにもその兆しを感じる。そうした事態を避けるために、広報は何ができるだろう。

この連載で指摘してきたように、記者会見では責任者が「自分の言葉」で語ることが重要だ。公式見解を読み上げるだけなら、プレスリリースやQ&Aをホームページに掲載するのと変わらない。会見者と記者が質疑応答を通じてお互いに理解を深めていくのが本来の姿だ。その意味で広報は、トップがメディアに対し自分の真意を正確に伝えられるよう、専門家として助言すべき立場にある。

過去の炎上事例を見ると、記者会見の中継などを直接見た個人の発信が発火点になったケースは意外に少ない。会見でのトップ発言に限らず、ほとんどのネット炎上は主要メディアが電子版に流した記事が引き金になっている。それをポータルサイトなどが転載し、さらにインフルエンサーがSNSで引用するという流れで広がっていくことが多い。つまり炎上を防げるかどうかは、広報が普段付き合っている主要メディアへの対応が鍵を握っているのだ。

広報が察知すべきポイント

図 広報が炎上を防ぐ機会

広報が関与できる局面は、大きく分けると...

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