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処理水放出で生まれる地域間競争

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

イラスト/たむらかずみ

処理水放出で生まれる地域間競争
原発処理水の海洋放出によって、中国が日本の水産物の輸入を全面的に停止した一方で、国内ではふるさと納税で地域を応援する動きが広がっている。

処理水の海洋放出が決まってから福島県内の自治体へのふるさと納税による寄付が増えているという。報道によると、8月22日から9月7日までの17日間で、いわき市は前年比で件数が10倍以上、寄付額は約8倍になった。浪江町の8月の寄付は件数が6倍弱、額は8倍弱に増えた。

隣の宮城県ではどうか。石巻市が放出翌日の8月25日から6日間で、直前6日間の1.8倍。南三陸町でも増加したが、同じく前後6日間でその額は1.2倍弱だったという。増えてはいるが、増え方には差がある。そこで今回は、処理水の放出をきっかけに生じる地域間の差について考えてみたい。

注目獲得戦争という地域間競争

中国が日本の水産物の輸入禁止を決めた時、政府は盛んに風評対策を口にした。しかし、マイナスの影響は全国一律に出る訳ではない。同様に、ふるさと納税のような支援においても、自ずと自治体間に差が生まれる。

これは広域災害の時などによく見られる現象で、被害の状況がニュースで多く報じられる自治体は、そうでない自治体と比べて、多くの支援が集まる傾向がある。

そのため自治体は、限られたニュースの枠の中で、自分たちの地域における被害の状況が、他の地域よりも多く報じられるように知恵を絞る。これを「Attention Wars(注目獲得戦争)」と呼ぶ。主に災害広報で使われる概念だ。

話題をつくり続けられるか?

処理水の海洋放出で、地元の漁業関係者に話を聞く様子がニュース映像で繰り返し流れたが、影響が出るのは「地元」だけではない。中国の輸入禁止によって、中国への輸出が多かったホタテやナマコの水揚げが多い漁業地域が影響を受ける。岸田首相がホタテを食べようなどと呼びかけ、ニュースも繰り返しホタテの様子を報じ、たとえばホタテをふるさと納税の返礼品にしている北海道東部の別海町では、前年比で6~7倍の寄付につながっているという。一方でナマコを扱うニュースは、ホタテと比べると少ない印象だ。

こうした地域は今後、話題をどうつくり続けられるかという問題に向き合うことになる。30年近く続くと言われる処理水の放出で、応援ムードがこの先も続くかどうかは分からない。注目が失われれば支援も減るだろう。短期的に見ても、大雨や台風など災害が頻発しており、支援が必要とされる地域が今後も次々と生まれてくると考えられる。

広報の立場においては、こうした状況で、必要に迫られた時にどう話題化し、注目を集め続けられるのかを考える機会としたい。支援を受け入れる環境や知恵を受援力と言うが、これまでの災害ですでに多くの事例や知見が共有されている。自分たちがいつ急に支援を求める側になるかは、誰も分からない。

社会構想大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役
鶴野充茂(つるの・みつしげ)

社会構想大学院大学客員教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。
個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/

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