日本唯一の広報・IR・リスクの専門メディア

           

ウェブリスク24時

宮内庁広報室ができた意味

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

イラスト/たむらかずみ

宮内庁広報室ができた意味
今年4月、宮内庁に広報室が設置された。皇室に関する情報発信を強化する役割を担い、初代室長には警察庁の女性キャリア官僚が就いた。

宮内庁に広報室が新設された。メディアは秋篠宮家の長女、小室眞子さんと小室圭さんの結婚をめぐって過激化した報道やネット上の誹謗中傷が背景にあると伝えている。宮内庁長官は、3月の定例会見で「皇室の方々の活動や人柄を今まで以上に充実した形でタイムリーに情報提供できるよう心がけていきたい」と語った。

広報室は10人規模で、民間企業からも2人が起用されるという。宮内庁にはもともとマスコミ対応がメインの「報道室」があった。そこに新たに広報室が必要とされる意味を本稿では考えてみたい。

メディア対応だけでは不十分

中央省庁の多くには、主にマスコミ対応を担う報道室(課)と、それ以外の広報活動を担う広報室(課)がある。これまで宮内庁にはなかった広報室ができただけだ、と言えば表向きはそうかもしれない。

ただ、組織はそれほど簡単に生まれるものではない。宮内庁は2021年、眞子さん結婚後の会見で「情報発信を時代に合わせて研究したい」と伝え、2022年に体制整備のための増員を要求、2023年度予算で広報室長ポストを含む4人の増員が認められるという何段階もの手続きを踏んできた。新たな広報機能を見る際に、従来のマスコミ対応だけでは不十分という組織的な問題意識があることにまず目が向く。

「声」を意識した広報

報道は基本的にファクトを元にした世界である。その観点で、ファクトよりも感情を元にしたバッシング、誹謗中傷のような「声」に対するコミュニケーションとしては、従来のマスコミ対応では確かに不十分と言える。

日本の皇室が参考にする英王室は、SNSをフル活用している。それは数々の王室ネタが日常的にメディアで報じられるお国事情のなかで、厳しい「声」にも向き合わざるを得なくなった結果でもある。

英王室は、複数のSNSで、王室メンバーの日常の様子やフォロワー向けの直接的なメッセージ、ユーモアあふれるコンテンツなどを投稿。開かれた王室のイメージを伝え親近感を醸成しようとする様子が随所に窺える。

日本はというと、婚約内定の会見で「夜空にきれいな月を見つけ、思わず宮さまにお電話をした」エピソードを微笑ましく受け止めた世間の「声」が、その後大きく変化。誹謗中傷に「誤った情報」が含まれていることを秋篠宮さまは問題視していると繰り返し報じられてきたが、偽情報を打ち消したとして世間の「声」をどれほど変えられたのかは分からない。

一方で、「声」をまるで聞かない広報ではうまく行かないことは確かだ。「声」を抑え込もうとするならさらに大きな反発につながるだろう。今後どのように宮内庁広報室がコミュニケーションをするのか注目である。



社会構想大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役
鶴野充茂(つるの・みつしげ)

社会構想大学院大学客員教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/

無料で読める『本日の記事』をメールでお届けいたします。
必要なメルマガをチェックするだけの簡単登録です。

お得なセットプランへの申込みはこちら

ウェブリスク24時 の記事一覧

宮内庁広報室ができた意味(この記事です)
匿名アカは身バレすると念押しを
よその批判見て我がふり直せ
値上げ時の広報準備
企業アカウントは注目をどう活かす?
広報会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する