ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

イラスト/たむらかずみ
ネット炎上で謝罪する時しない時
ネットで炎上した場合も、謝罪が必須とは限らない。組織が目指す姿や意図を伝え沈静化したケースもある。炎上の中身を踏まえて、いかに伝えるかがポイントになる。
スープストックトーキョーによる離乳食を無料提供するという発表は、店に子どもが増えて静かに食事ができなくなり迷惑だという主張と、この主張に対して拒絶感を示す人の発信により、炎上状態となった。
発表から約1週間後、同社は声明を出した。この取り組みは「世の中の体温をあげる」という企業理念に基づく「Soup for all!」の一環であることや、「小さなお子さま連れという理由で外食店での飲食をためらう方の助けになればと始めた」とあり、「年齢や性別、お子さま連れかどうかで区別をし、ある特定のお客さまだけを優遇するような考えはない」「ひとりひとりのお客さまを大切にしていく」というメッセージが書かれていた。謝罪はなかった。その後、議論は沈静化した。
謝罪する時しない時
炎上では謝罪の有無が注目されることが多いが、対応する組織内の議論でそこに焦点が当たることは、実はそれほど多くない。施策自体の議論は、その時点で結論が定まっているのが一般的だからだ。こうした場合、考え方をどう伝えるかが問題になる。やってはいけないのは、炎上を鎮静化させるために謝罪をしてしまうことだ。
今春、牛丼チェーン・松屋の券売機が使いにくいという声がネット上で広がった。個人的に私自身も使いにくいと感じていた。この話題を取り上げた記事に、松屋フーズホールディングス広報の「操作性の向上につきましては見直しを実施しておりますので、今後もご利用いただけますと幸いです」とのコメントが紹介されている。これも謝罪はない(する性質のものではない)が、飛び交う声を見れば、改修の必要性は認識されたことだろう。
一方で、素早い謝罪が必要な状況もある。4月、自動車販売の広島マツダは、従業員が車いすに乗り障がい者のまねをする動画を投稿していたことを謝罪した。本人たちは障がい者を揶揄するつもりはなかったと言うが、謝罪文では「軽率な行動」と述べている。
見直しと対話に活かせ
2月、熊本県産山村の伝統行事「うさぎ追い」が3年ぶりに開催された。村のサイトで紹介され地元紙などが報じたところ、ネット上で動物虐待や時代錯誤などと声が上がり、Twitterでトレンド入りするほどに注目された。開催から約10日後、村はメッセージを公開し、翌年度の開催中止を発表した。今後の開催は、「皆さまからの御意見を参考にしながら、産山村の草原や山林といった自然、里山文化を知る新たな体験型活動等を企画して参ります」とした。謝罪ではなく、これまでの参加と意見への感謝がまとめられていた。
これまで止まっていたイベントや活動が動き始めるタイミングだ。中にはコロナ前には予想しなかった反応もあるかもしれないが、極端な反応も含めて中身をよく見て評価し、見直しと対話のきっかけとして活かしていきたい。
社会構想大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役社会構想大学院大学客員教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/ |