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スポンサー企業のスタンスが問われる時

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

イラスト/たむらかずみ

スポンサー企業のスタンスが問われる時
広末涼子さんとシェフのダブル不倫疑惑が報じられた後、キリンHDは広末さんが出演する広告動画を削除。「本来の商品価値を伝えることができないと判断した」と述べた。

スポンサー企業のスタンスを問われる出来事が相次いでいる。6月初旬、広末涼子さんのダブル不倫疑惑が報じられ、メディアや広告会社、そしてスポンサー企業各社は対応に追われた。キリンビール「本麒麟」の広告に広末さんを起用しているキリンホールディングスは、公式サイトなどから動画を削除した。

注目はそのタイミングとコメントである。動画が削除されたのは記事が出た翌日。記事で広末さんたち本人は否定しており、その時点では疑惑の段階である。取材に答えたキリンホールディングス広報は、「報道による情報しかないため、詳細は分かりませんが、商品の本来の価値を伝えることができないと判断しました」とコメントした。

広告は、注目を集めてイメージや世界観を伝える役割を担う。「商品が売れる」という経済価値も求められている。スキャンダルに際して、しばらく様子を見る(その間も広告効果で売れてほしい)という判断もあったはずだ。しかし、即座に動画を削除したのは、端的に言えば短期の売上よりもスポンサー企業としてのスタンスを明らかにすることを重視したと言える。本稿では企業がスポンサーとしてスタンスを問われる場面について考えてみたい。

ジャニーズ性加害問題では

4月末発売の『週刊文春』が、ジャニーズ性加害問題に関するスポンサー約100社へのアンケートの結果を公表した。ジュリー社長の謝罪動画が出る前で、ジャニーズ事務所が取引先企業向けに釈明文書を送ったことを受け、事務所の説明に対する評価とジャニー氏による性加害への見解を問うものだった。公開されたアンケート結果を見ると、多くのスポンサー企業が無回答に近い内容だった。そんな中、スタンスの明確さで際立っていたのがアサヒグループホールディングスである。

「性加害が事実であれば誠に遺憾である」「人権を尊重することは企業の責務」と述べ、同社では、個人の人権と多様性(ダイバーシティ)を尊重し、差別や個人の尊厳を損なう行為などを行わないことを人権方針で明示し、ステークホルダーの人権を尊重している旨、回答している。

宣言/価値観との整合性

5月、ジャニーズ事務所はジュリー社長の謝罪動画を公開し、『週刊文春』は再びスポンサー企業にアンケートを実施した。4月よりも多くがスタンスを表明し、ジャニーズ事務所の対応に厳しい見方を示すものもあった。また性加害問題は許されないといった一般論でなく、自社の掲げる方針に反するなどの理由を加える企業が増えた。

企業は今、さまざまな宣言や価値観を掲げている。たとえばコーポレートバリューや行動指針のようなものだ。それらに照らし合わせ疑惑の解明を待たずに判断できるものはその時点で判断し、スタンスを示す。それが、企業が心得ておくべき今の潮流だ。



社会構想大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役
鶴野充茂(つるの・みつしげ)

社会構想大学院大学客員教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/

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