ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
川内優輝選手は、久喜市が進めていたマラソン大会のためのクラウドファンディングが、100万円の目標額に対して7万円の支援しか集まらなかったことを受けて、開催理由に疑問を持った。
知り合いの議員にフルマラソン開催の理由を尋ねると「市長の選挙公約だから」「調査予算がついたからもうやめることはできない」と言われたとし、「開催理由として、全く魅力を感じませんでした」とツイート。これが波紋を呼び、ネット上には「フルマラソンをやれば人が集まるっていう時代でももうないしね」「そもそも市の事業としてやるのであれば、クラファンは手段としていかがなものか」など批判的な声が広がった。
脆弱な体制の上の看板
クラウドファンディングは、ふるさと納税制度を活用した専用サイト上で実施されていた。そのサイト上では、川内選手との交流会に参加できる権利が、支援者へのお礼の品として紹介されていた。もともと川内選手は久喜市出身。コロナ前に開催されていた当地のマラソン大会にも参加していた経緯があった。クラファンの性質上、支援が満額集まる場合もあれば、もちろんそうでない場合もある。しかし、今回のように目標額の7%しか集まらないのは、明らかに計画自体の失敗だ。
注目したいのは、いわば看板になっている人物から苦言が発せられたこのツイートによって、外部に向けた広報の弱さはもちろん、関係者への周知や協力要請の不足が露わになったこと。つまり内外への「コミュニケーション」の雑さや弱さである。これは、当事者だけでなく広報に携わる皆にとって他山の石としたい事例だと感じた。
他社の炎上をきっかけに改善
批判の声で、多くの人は出来事や問題を知る。たとえ当事者でなくとも、それを貴重な機会として活かす方法を考えたいところだ。2022年末、ローソン店舗のレジ横にある中華まん蒸し器に「外国人のお客様へ『これ』禁止」と書かれた手書きの貼り紙の写真がネット投稿され、炎上した事件があった。店側の意図は、曇ったガラスの向こう側から「これ」と言われると、商品の受け渡しにミスが生じる可能性があると伝えること。しかし、日本語の不自由な外国人を差別するものと受け止められて批判が相次いだ。
例えば数字や記号で表示すれば、客は「これ」と言わなくても、注文での誤解やストレスを減らせそうだ。そうすれば外国人だけでなくユニバーサルな観点で「コミュニケーション」の改善が図れる。自社にこれを反映あるいは役立てられるところはないだろうか。そんな視点から、他社の炎上や批判を見ていけるようにしておきたい。2月は飲食店での迷惑行為を映した動画が多数投稿された。「自社で起きたら」だけでなく、先回りして改善点の検討機会にしたいところだ。
社会構想大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役社会構想大学院大学客員教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/ |