ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
Twitterで過激発言や誹謗中傷を繰り返す2つの匿名アカウントが注目を集めた。ひとつは、共同通信名古屋編集部デスクが運用していたフォロワー1.6万超の「桜ういろう」。もうひとつは削除済だが、同社の関西支部に勤務する30代男性記者のものと一部では報じられている。
当連載では過去にも過激な匿名アカウントが特定され、所属組織が謝罪・処分した事例を取り扱ってきた。2015年の新潟日報報道部長、2019年のディー・エヌ・エーのCGクリエーターなどだ。今回再び、広報部門として認識を新たにするタイミングだと感じて取り上げることにした。個人利用の匿名アカウントの取り扱いについて、所属組織が日ごろから注意を払う必要性が増しているためである。
匿名アカは身バレする
本来、個人SNSは所属組織の管理下になく、組織が関与する性質のものではない。しかし、社員の問題行為が発覚すると組織の管理責任を問われることから、ガバナンスやリスクマネジメントのテーマとして見られるようになってきた。少なくとも社内の注意喚起は不可欠で、❶誹謗中傷、差別発言は組織として許容できないこと ❷守るべきルールを明示しているガイドラインの遵守 ❸匿名アカウントは高い確率で特定されること ❹対処法について不安がある場合には相談に乗ることなどは伝えておきたいところだ。
匿名アカウントの特定には、プロバイダなどへの発信者情報開示請求や、ネット上の公開情報をもとに調べていくやり方など複数ある。運用期間が長い匿名アカウントの場合は、過激化する前の投稿から集めた情報の断片によって、別SNSの実名アカウントとの共通点が見出されることも。今回の場合は、以前使っていた実名のInstagramアカウントからの特定だ。
現在はこうした作業を得意とする人々によって特定されることが多いが、近い将来、ChatGPTのようなAIツールが簡単に割り出すようになるだろう。匿名であっても身バレするという認識を共有しておきたい。
特に管理職が危ない
ただ、問題投稿への注意喚起は簡単ではない。長期間のうちに少しずつ発言がエスカレートし、エコーチェンバー*で同様の思想を持つ過激なアカウントが周りにも増加。
それでいて自分が見られている認識を持ちにくく、その変質も自覚しにくいためだ。匿名アカウントの炎上で特定された事例には、管理職やシニアが目立ち、社会的にも責任ある人物が繰り返しニュースに登場している。ネット上には、極端な意見が飛び交うテーマが多くある。こうした具体的なテーマで事例を共有し、日ごろ見かけるものを確認し合うなど注意喚起の方法にも工夫が必要だ。そして、身近に起こり得る問題だとして日常的に話題にしていくことを心掛けたい。
社会構想大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役社会構想大学院大学客員教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/ |