関東大震災から100年目という節目に当たる2023年。災害への備えに関する情報発信は、ますます増えていきそうだ。防災に対する生活者の意識や、防災用品の市場はどのように変化しているだろうか。防災関連のコミュニケーションにおける注意点などについて話し合った。
防災に対する価値観が変化
これまで
防災関連の情報発信は、緊迫感があり、災害への「備え」の重要性は理解できるものの、実際に取り入れるにはハードルが高い、距離を置きがちという課題があった。
これから
日常使いができ、万一の時も使える防災用品に注目が集まっている。ライフスタイルにあった親しみやすい発信が求められる。
日頃から備える
──防災に関する生活者の意識の変化や、防災関連商品・サービスの変化をどう捉えていますか。
高荷:「防災用品っぽくない」アイテムが増えていますね。毎年3月、9月は、メディアが防災の特集を組むことが多く、私もアドバイザーとして防災用品を紹介するのですが、その時々のトレンドもあるんです。振り返ってみると、2011年の東日本大震災後は「おいしい非常食、我慢しない非常食」が注目されていました。2015年頃になると「ツナ缶でランプをつくる」といった手づくりの防災用品の紹介が多くなりました。
そして2016年の熊本地震。地震が少ないと言われていた地域での大地震発生でしたが、この頃から、日常の備えが見直され、普段使いしやすい「おしゃれで見た目の良い防災品」に関心が集まるようになっています。2020年代に入ってからは「フェーズフリー」という言葉が浸透してきています。これは日常と非日常のフェーズを分けず、普段利用しているものを災害時にも使えるようにする考え方。おいしい非常食、見た目が良い防災用品、というのも、総じてフェーズフリーの商品と言えます。
佐多:日頃から備える、という価値観の浸透を後押しした背景には、大きく2つあると考えています。ひとつはSNSの普及です。被災の様子が拡散されやすくなり、現地に自分がいなくても「備えることの大切さ」を実感できるようになったこと。もうひとつはキャンプブームです。キャンプ用品はデザイン重視のものも多く、手に取るハードルが下がりやすく、かつ防災にもなります。こうしたことが、防災を自分事としてとらえるきっかけになっているのではないでしょうか。
一坂:当社でもフェーズフリーの考え方で災害時のオーラルケアの啓発を行っています。水の貴重な避難生活で歯磨きが十分にできないと、誤嚥性肺炎が起きやすくなるのですが、「防災袋に歯磨きを入れる」という視点は見逃されがちです。
そこで、日頃から利用している生活用品の中に液体ハミガキを加えて、万一に備える「ローリングストック」を勧めています。コロナ禍前後での意識の変化も感じていて、災害の大小を問わず、断水や停電といった状況にも対応できるよう「平常時から家庭内で備えておこう」という発信が求められているように思います。
サンスターグループ「防災にオーラルケア」
避難所生活や水不足で口を清潔に保つことができないと、細菌が誤って気管に入り炎症を起こす「誤嚥性肺炎」が発症しやすくなる。そこでサンスターグループでは災害時の口腔ケアの大切さを訴える啓発活動を行い、長期保存でき、水ですすぐ必要のない「液体ハミガキ」の備蓄を行政や病院、個人に勧めている。メディアリレーションにおいても防災情報を継続して提供し、パブリシティにつなげている。
平常時も見たくなる防災情報
──防災を訴求する商品・サービスの情報を発信する際のポイントは?
一坂:メディアに対するアプローチでは、3.11や防災の日(9月1日)といった、防災関連の発信が増えるタイミングが来る半年~1カ月前から、企画に役立ちそうな情報をまとめて記者に渡したり、調査リリースを配信したりと継続的に伝えることを心がけています。「防災」のテーマで、当社に取材の声がかかるのは、災害時のオーラルケアの重要性について、何度も繰り返し発信しているからだと思います。メディアや防災に関するプロフェッショナルに働きかけ、ともに発信していくことで、生活者の皆さんにより伝わるものになると考えています。