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企画のアイデア

時間の使い方は「どう生きるか」の意思表示 タイパの先の多様な生き方への応援を

一川 誠氏(千葉大学)、長谷部祐樹氏(Voicy)

「今年の新語 2022」(三省堂発表)の大賞に「タイパ(タイムパフォーマンス)」が選ばれた。タイパとは、費やした時間に対する満足度を指す。技術革新が進み時間への価値観が若年層を起点に変化する中、共感を集める広報活動に求められる視点とは。

千葉大学
大学院人文科学研究院 教授
一川 誠(いちかわ・まこと)氏

大阪市立大学文学研究科後期博士課程修了後、学振特別研究員、ヨーク大学博士研究員、山口大学講師・助教授、千葉大学助教授を経て2013年より現職。専門は実験心理学。

Voicy
事業開発・広報PRブランディング責任者
長谷部祐樹(はせべ・ゆうき)氏

JTB、ベクトル、スペースマーケットを経て、Voicyへ入社。Voicy Branding Programなどの法人向けソリューションの啓発や各種事業開発、PRブランディングの統括を担当。

「時間」への意識変化

    これまで

    効率的な時間の使い方を追求することで、自分が時間を費やしたいものごと以外は時短で済ませる傾向。短尺動画サービスや書籍の要約サービスの流行、映画の倍速視聴なども、タイパ重視の表れとされる。

    これから

    より俯瞰した視点で自分が重視する価値観や得たい・実現したいことに合わせた時間の使い方を選択していくように。単に時間の短縮を図るのではなく、一定時間の中でいかに「満足度の高い過ごし方ができるか」が重要となる。

時短意識でツールなどを活用

── 「タイパ」という概念はいつ頃から聞かれるようになりましたか。

一川:2022年頃から話題になった印象です。「タイパ」のモチベーションとしては、効率性を重視する「コスパ」に近しいのですが、「時間を短縮したい」というニュアンスが強いのでしょう。具体例として、映画を早送りで視聴したり、マッチングアプリなどを活用して自分に合った交際相手などを効率的に探したりする人が増えています。

大学の講義もコロナ禍以降、動画を活用したオンデマンド配信の形が浸透しましたが、その動画を「早送り」で視聴する学生も多くいます。また新たなデジタル機器などへの認知が早く、積極的に取り入れて効率化を図る学生もおり、「タイパ」意識の表れだと感じています。

長谷部:私も当社で手がける音声サービス「Voicy」を通じて、「タイパ」意識を感じることがあります。「Voicy」は、「発信者の考えや想いを届ける」ことを掲げた個人や企業の音声プラットフォームで、ユーザーは好きなタイミングでコンテンツを聴けるようになっています。スキマ時間や何かの作業中に「ながら聴き」する傾向にあるようです。ユーザー層は現在165万人を超えており、30~40代がボリュームゾーン。職業は多様ですが、学生より会社員のような比較的多忙なライフスタイルを送っている方が多いです。

またサービスの特徴として、脳科学者の茂木健一郎さんをはじめ、第一線で活躍されている多忙な方も積極的に配信されています。これは配信のシステムを工夫したためで、煩雑な作業なしにスマホに話しかけるだけで収録から配信までが手軽に行えます。多忙な発信者が日々配信できる環境をつくったことで、結果的にユーザーも、タイムリーに届くコンテンツを、楽しんでいるようです。音声を倍速再生できる機能も付与しており、実際に倍速で視聴をするユーザーも多数見られます。

その背景には情報が爆発的に増える中、「このコンテンツに時間を使っていいものか」までを迅速に判断したい意識もあるのではないでしょうか。

── 「タイパ」意識は、どのような要因から広がっているのでしょう。

一川:コロナ禍による外出自粛期間の中で、個人が自宅で使える時間が増えましたが、最近はまた出社を強いられる人もおり、もとの生活に戻りつつある人も多いように思います。コロナ前と使える時間は変わらないのに、自粛期間でやりたいこと・やるべきことなど時間を使う選択肢が一気に増え、時間のやりくりが大変になりました。この結果、効率化を図り、短縮できる時間は短縮したい意識が高まっている印象です。

2016年にサービスを開始した、音声プラットフォーム「Voicy」。テキストや動画などよりシンプルで手間のかからない声の発信ツールのもと、編集しない声だからこそ本人性や思いが届く新しいコンテンツを生み出してきた。

「メディアによる“中の人見える化”、単なる“タイパ”より誰から情報を得るかが鍵」と題したリリースに記載のメディアマップ。「誰が発信しているか」も判断指標となり、Voicyでは「中の人が見える」マスメディアのチャンネルが増加している。

時間の使い方が多様化

一川:「タイパ」を追求することで時間をどのように使うかの選択肢が増えるという側面は、メリットだと感じています。私の身近な例だと、英語論文の執筆の際にAIを使ったニュートラル機械翻訳サービス「DeepL」を使って、作業を簡便化している学生が見られます。日本語で大雑把に書いた文章をもとに、自然な英語の文章が生成され、英語論文のベースが出来上がります。日本文で段落構成のデザインができていればかなりしっかりした英語論文になるので、執筆時間が大幅に短縮されます。

私自身「このようなツールをまずは活用して、問題が起きたら改善していけば良い」という方針ですが、特に学生は新たなツールを素早く取り入れ使いこなすスキルに長けているように思います。ツールを柔軟に使いこなすことで、「タイパ」が良くなるだけでなく、本当に時間をかけたいことに使える時間が増えるので、結果的に視野が広がっていくのは良い流れだと感じています。

長谷部:広報視点で話すと、私たちの場合、「タイパ」と近しい文脈で、「ながら聴き」という表現を用いることがあります。これは「Voicy」に限らず音声サービス全般で使われますが、特に最近はBluetoothイヤホンなどの技術も進化してきており、家事や通勤時など、他の作業に手を動かしながら片耳だけイヤホンを入れても音声が...

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