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著者インタビュー

危機管理の基礎教養 会社を守るために「理論」の踏襲を

田中優介氏

その対応では会社が傾く
プロが教える危機管理教室

田中優介/著
新潮新書
144ページ、836円(税込)

災害や不条理な事件・事故が増え、ハラスメントの防止策も求められる昨今。炎上対策に向けて企業のディフェンス力の強化が急務となった。有事に直面したとき、“場当たり的な言動”による失敗を回避するには、危機管理の「理論」を学び、「疑似体験」を重ねることが重要だと筆者は語る。

そこで本書では、ケーススタディを挙げながら、多様な性格や価値観の人物が議論するゼミ形式で危機管理の進め方を解説した。学術的な見解よりも現場で活かせるノウハウを優先。結果論だけでなく、失敗や軌道修正を経て成功に至るプロセスを紐解くことで、自分ゴト化しやすい内容となっている。

危機管理の4ステップ

「危機管理における失敗を避けるには、以下の4ステップを守ること。危機を素早く『感知』し、現状と今後の展開を『解析』した後に、詳しい説明や謝罪などで『解毒』した上で、窮状からの『再生』を図る、という流れを踏襲することです」。

中でも3ステップ目の「解毒」に徹する姿勢が重要だと述べる。「解毒」にも4つのステップがあり、1つ目は、自らが引き起こしたことの影響を考え、どこがいけないのかを言語化する「反省」。次に、なぜ自分がそのようなことをしたのか、心理的な原因を分析して考える「後悔」。これらを踏まえ、外に向けて語るべき事実と謝罪の言葉を考える「懺悔」。最後に、「口先だけではないか」という疑念を拭うため、自らに罰を与える「贖罪」が必要となる。

「例えば、早く解決したい一心で『懺悔』を飛ばし、お金で解決するなど『贖罪』のみを行えば、怒りを煽る可能性が高いですよね。このように危機管理では順序を守ることが大切です。よくある失敗は、人間心理の2つの“トウソウ”心(『逃走』と『闘争』)に起因することが多いので、今取ろうとしている行動が当てはまっていないか、常に精査しましょう」。

危機管理・コミュニケーションで重要な謝罪会見も、「解毒」のために実施するもの。決して逃げるべきではなく(逃走)、自らの主張により相手と戦う場でもない(闘争)。謝罪会見も、そして法廷でも、常に「解毒」を念頭に置くべきだ。

Q&AよりQ&Pを

「記者会見では、マスコミの立場を理解することから始めましょう。『被害の拡大防止・再発防止・ステークホルダーの知る権利を満たす・良き社会を実現するための権力者の監視』、これらの大義名分の元に報道を行う定理を踏まえれば、マスコミ側の追求範囲が予測しやすいはずです」。

また、筆者は多くの企業の記者会見をサポートしてきた経験から「Q&A(想定問答)はQ&P(ポリシー)にしかず」と力説する。「膨大な量のQ&Aを会場に持っていっても、回答を探し出すのもひと苦労で、それを読み上げるのも不誠実な印象を与えてしまいます。Q&Aは自分たちの安心材料にすぎず、実際には役に立ちません」。

そこでA4用紙1枚から2枚程度のQ&Pを作成することを推奨している。作成の際に考えるべき論点は、「誰が防ぐことができたのか」と「どんな不作為があったのか」の2点だけ。Q&Pを用意することで、質問のプロである記者からどんな角度の質問をされても、ブレない回答ができるようになる。

「広報担当者においても、良心に従って、当たり前のことを当たり前に行うスタンスが大切です。そして、取返しのつかない失敗を回避するためにも、本書の理論を順序通りに実践してみてください」。

田中優介(たなか・ゆうすけ)氏
企業の危機管理コンサルタント。2010年セイコーウオッチ入社。お客様相談室、広報部などに勤務後、リスク・ヘッジ入社。同社代表取締役社長。著書に『地雷を踏むな』等。

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