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記者の行動原理を読む広報術

記者間の引き継ぎ 広報がフォローすることで、露出拡大に?

松林 薫(ジャーナリスト 社会情報大学院大学 客員教授)

赴任直後の記者から取材された際、前提知識の欠如が原因で話が噛み合わなかった──そんな経験はないだろうか?その背景には引き継ぎ不足があるわけだが、それはなにも前任者の職務怠慢、というわけではなさそうだ。著者が説明する。

年度替りは異動や担当替えのシーズンでもある。広報部内もさることながら、自社の担当記者が交代するケースも多いだろう。その場合に注意が必要なのは、記者は取材源に関する情報については自社内であっても共有するのを嫌う傾向がある点だ。自社についての情報が前任の記者から後任へと申し送りされていると思ったら、実は全く引き継がれていなかったというケースが意外に多いのである。今回は、担当記者が代わった際に気をつけるべき点について考えてみよう。

記者は“個人商店”

新聞記者だった頃、広報と話していて「この話、前任の◯◯記者から聞いてなかったんですか?」と呆れられることがよくあった。広報としては、重要な情報なので当然、聞いていると思っていたらしい。その度に、「記者は組織で動いているように見えて、実は『個人商店』でして⋯⋯」と苦笑いするしかなかった。

個人差はあるが、記者の引き継ぎはあっという間に済んでしまうことが多い。気の利いた後輩からの引き継ぎであればA4用紙で1枚程度の引き継ぎ書くらいはもらえるかもしれない。しかし相手が親しくない先輩だったりすると、最悪の場合10分ほど口頭で説明しただけで「あとは広報に聞いて」で終わってしまう。逆に詳しい説明を受けて安心していたら、後で「重要案件のキーパーソンは誰か」といった肝心の情報を教えてもらっていなかったことに気付いた、というケースもあった。

どうしてこんなことになるのか。実は、ジャーナリズムの世界で最も重要な原則のひとつとされる「取材源の秘匿」が関わっている。

記者には、スクープにつながる情報提供者について、秘密を守る責務があるとされる。例えば裁判などで証言を求められてもネタ元については明かさない。法的な位置付けは弁護士などの守秘義務と異なるが、判例によると証言を免責されるケースもある。海外では米国のウォーターゲート事件(1972年)で、「大統領の陰謀」をスクープしたワシントンポストの記者が、ディープスロート(情報提供者)の正体について2005年に本人が名乗り出るまで秘密を守り続けた例が有名だ。

スクープにつながるような情報は、ネタ元にとって守秘義務の対象であるケースが多い。漏らすことで罪に問われたり、危害を加えられたりする可能性もあるのだ。記者が捜査当局や敵対する相手に情報を渡さないという確信がなければ話してくれないだろう。だから情報源の秘匿は...

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