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理念 転換期を乗り越えるコミュニケーション

コロナ禍は存在意義を再確認するチャンス 理念を可視化させ、「バトン」をつなぐ

山崎大祐(マザーハウス) × 小野邦彦(坂ノ途中)

ものづくりを通じ、途上国の可能性を世界中に届けるマザーハウスと、環境負荷の小さい農業従事者と提携し野菜の宅配・販売事業を行う坂ノ途中。社会課題解決に向け事業を続けてきた2社が理念の意義について対談した。

マザーハウス

広報体制:部署名「広報/PR」として、2人所属。広報、PRの他、講演会対応なども行っている。

坂ノ途中

広報体制:代表含め、各従業員で対応。

創業当時は理解されなかった

──坂ノ途中は「100年先もつづく、農業を。」を理念に、農業を未来につなげるための事業を展開しています。理念に込めた想いを教えて下さい。

小野:僕たちのテーマは、環境負担の小さな農業を広げていくことです。「環境負担が小さい」とは「持続可能な」農業を広げるということ。今では持続可能性やサステナビリティという言葉も当たり前になりましたが、2009年の創業当時は「何を言っているの?」という反応がほとんどでした。

僕が思う「持続可能」とは、“遠くとのフェアネス”です。人間は、近くのものには想像力を働かせて思いやることができますが、遠くにいる人やものを想像するのは難しいですよね。そこで、できるだけ遠くのものをイメージする機会になるようなフレーズにしたいと考えました。

“遠く”は、地理的な遠くと時間的な遠くがありますが、地理的な遠くのほうはまだ想像しやすい。時間的な“遠く”とのフェアネス、つまり「誰かが残してくれたものを今の自分たちが消費しているだけなんじゃないか」「将来誰かが享受できるはずのものを今自分たちが先取りしているんじゃないか」という思いが想起されるようにしたいと思い、「100年先もつづく農業を。」という理念をつくりました。

──マザーハウスの「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念についてはいかがですか。

山崎:僕たちは、会社を興すよりも先に、代表取締役社長でチーフデザイナーの山口絵理子がバングラデシュでバッグをつくったことが始まりです。現地で彼女は「援助では変えられない世界がある」と感じ、持続的な方法として「途上国から世界に通用するブランドをつくり、お客さまに満足してもらえるものづくりをしたい」と考えました。帰国後、最初にそのバッグを僕に売りにきたことがきっかけで、2006年、2人で会社を立ち上げました。

はじめにしたことが理念づくりでした。山口と僕とコピーライターの友人の3人で、深夜までファミレスにこもって考えていました。山口がイメージしていたのは「ニューヨークやパリ、東京で颯爽と歩く女性が持っているかわいいバッグに、『Made in 途上国』のラベルがついている」という世界。それを文章や絵でまとめていくうちに、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念ができました。

小野さんもおっしゃる通り、当時はとても馬鹿にされました。14年前、当時のバングラデシュは最貧国。「いいものなんてつくれる訳がない」とか、卸先にバッグを持って行くと「『Made in Bangladesh』のタグを外したら売ってあげるよ」と言われることもありました。

ただ、1年目に大きい理念を掲げていて本当に良かったと思っています。14年間、コロナ禍のような困難があってもやって来られたし、「僕らはまだまだスタートラインだ」と思えるのも到底たどり着けないような理念のおかげ。理念は存在意義そのものです。時代や表現する言葉が変わったとしても、本質は変わらないから進むべき方向に迷うことはありません。

共通点は「危機慣れしている」

──このコロナ禍で、理念を軸とする経営方針の意義について改めて感じたことはありますか。

山崎:収支だけを計算したら、僕たちや小野さんのようなビジネスはしんどいことが多いと思います。小野さんの場合も、短期的な利益を追求しない農業の形は合理的じゃないですよね。でも、やるべき理由と存在意義があって、それに共感、言語化してくれるお客さまがいるから成り立っている。理念を追いかけていけるのは、強みだと思います。

そういう意味で、今はチャンスです。コロナ禍で、4~5月は当社の50近い店舗が臨時休業や短縮営業に。お客さまとのつながりが減り、生産工場もロックダウンでストップしました。「何もつくれない、何も売れない」ということは、存在意義の消滅を意味します。しかし、そんな環境下でも「何ができるだろう」と考えられるのは理念があるから。

僕たちは、途上国の工場と中継でつなぐオンライン配信イベントなどを実施しました。人でも会社でも、ピンチになると「何かやらなきゃ」と体が勝手に動き出す。そのときに理念や会社の存在意義の再確認ができます。

これからの時代はwhyがしっかりしている会社が強いと思います。店舗というhowすら壊れてしまうような時代でも、そこにこだわらなくてもいいからです。もう一方、whyが強くなくても、自分たちはこうありたい=beingが強い会社も生き残りやすいと思います。what=何を売るか、how=ビジネスの在り方にこだわりすぎる会社は、何が起きるか分からない時代では、生き残るのは厳しい。

小野さんの会社もそうだと思いますが...

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