新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
街で行列を見かけると、まずタピオカドリンクと思って間違いないほどの盛り上がりを見せている「タピオカミルクティー」。
今月は、そんなタピオカブームの火付け役ともいえる「春水堂(チュンスイタン)」のリリースに注目します。
タピオカミルクティー発祥の地は台湾。ついタピオカばかりに目が行ってしまいがちですが、メインはお茶なのです。春水堂の創業は1983年。温かいお茶を提供する台湾カフェとして誕生したものの、台湾では若者のお茶離れが進んでいました。そこで若者にもウケるような、冷たくて甘いアレンジティーを開発する中で生まれたのがタピオカミルクティーなのです。
これが人気を呼び、台湾全土で現在52店舗を展開。「台湾茶の救世主」とも呼ばれるほどの存在になっています。日本では15年ほど前にも一度、タピオカブームがありましたが、そのときは、ごく短期的なブームで終わってしまいました。
春水堂が日本に初出店したのは2013年の代官山店。当時は3時間待ちの行列ができたといいますが、並んだのは新しいものに敏感なごく一部の人たちだと思います。
それが広まったきっかけは、「2015年にLCCで台湾便が増えた影響が大きい」と、日本で春水堂を運営するオアシスティーラウンジの経営企画部広報マネージャー・工藤芽生さん。
現地を訪れておいしいタピオカミルクティーを飲み、日本でも味わいたいと思う人が増えたこと。そして皆さんもご存じの通り、SNSの台頭。“インスタ映え”を探し求める若者(特に女性)にとって、タピオカミルクティーは格好の対象でした。
じわじわと来ていた人気が一気に爆発したのが2017~18年のこと。様々なタピオカミルクティーの店が誕生したばかりでなく、ファミリーレストランやカフェでも提供していて、今はまさにカオスの状態です。
この一大ブームは春水堂にとっても勝負の時期。現在ティースタンドも含めて22店舗に増え(2019年11月現在)、それぞれ店舗をつくりこみながら出店攻勢をかけているところです。そんな中、満を持して7月2日にオープンしたのが、今回取り上げる銀座店。同社では旗艦店と位置づけています。
取材で訪ねた銀座店は、GINZA PLACEという商業ビルで銀座四丁目交差点の地下という超一等地。よくこんな場所にテナントが出せたなと驚く立地で、会社の勢いがうかがえます。
店内も本物の木や石などの自然素材を贅沢に使用したアジアンモダンの洒落た雰囲気で、落ち着いてティータイムが楽しめます。店内に飾った花もすべて店員が自らの手で生けたもの。つまり女子高生を中心に行列をなしている一般的なタピオカ店とは異なったイメージなのです。
春水堂では新店をオープンするたびに、その店限定のメニューを販売しており、銀座店は白桃果汁と桃をぜいたくに使った「タピオカ白桃鉄観音ミルクティー」。銀座店のオープンは年度初めには決まっており、限定メニューが決まりビジュアルができるのを待って、6月13日にリリースを配信。配信会社を中心に約600のメディアに送ったそうです。
かなり多い数にも思えますが、工藤さんは「銀座の中心地なら、地方でもニュースになる」と考えて、強気に配信しました。その読みが当たって地方メディアでも取り上げられたほか、テレビでも『ZIP!』や『news every.』(ともに日本テレビ)のタピオカ特集などで10本ほど放映がありました。
ではそのリリースを見ていきましょう。(ポイント1)まず大切なのはタイトル。「6周年」「銀座」「旗艦店」「#タピる」など、メディアの目に留まるキーワードを多数配置しています。店のイメージカラーであり、台湾をイメージさせる赤の二重枠も目を引きます。そしてリリースの一番目につく場所に、見栄えのいいオリジナルメニューの写真を載せています …