新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
ある朝、NHKで「AIで予測した司法試験予備試験の問題が、的中率60%を記録した」と報道していました。そのあとも、多くのメディアで取り上げられているのを見て、サービスを実施しているサイトビジット(東京・千代田)を取材してみました。
同社は、弁護士であり起業家でもある鬼頭政人さんが2013年に設立し、法律系を中心とした難関資格試験のオンライン学習サービス「資格スクエア」を運営しています。
認知度アップを狙い無料提供
サイトビジットでは、今年の司法試験予備試験が実施される5月19日に備え、4月29日からAIによる試験問題出題予測サービス「未来問(みらいもん)」の提供を資格スクエアのホームページ上で開始しました。
本来なら、これを販売すれば大きなビジネスになると思うのですが、「それよりも今は会社の認知度を高めることのほうが重要」と、太っ腹にも無料で提供しています。
実は、今回提供された「未来問」は第2弾。第1弾は、2018年10月の宅建士試験用に提供したもので、なんと78%という高的中率を記録しました。
宅建士試験の受験者数は約20万人と、数多くある資格試験の中で最も多いため、反響の大きさを狙って第1弾に選んだそうです。その後、満を持して第2弾を司法試験予備試験向けに提供したというわけです。
自ら開成高校、東大法学部、司法試験という難関を突破してきた鬼頭さんには「資格試験は過去問から出る」という確信があります。そこでAIスタートアップ企業と提携し、これまでに出題された過去問や3500ページ分のテキスト問題集などを128カテゴリーに分類。これまでの出題傾向を学習した出題傾向予測エンジンを用いて、今年はどのカテゴリーから出題されやすいかを割り出すシステムを開発しました。「『未来問』という名称は、過去問が大好きな鬼頭が名付けました」と広報担当の佐藤知世さん。
リリースに関しては、3月中旬からメディアリストづくりなど準備を始め、開発部署の担当者とやり取りをしながら素材を準備し、ゴールデンウィーク直前の4月25日に配信しました。
そのリリースを見てみましょう。このリリースが成功した理由のひとつは、(ポイント1)「AI」をタイトルや本文などの全面に織り込んでいることです。
最近は、将棋の若手棋士が先輩ではなくAIとの対戦で修行するといわれ、AIが人間を超えるかどうかも社会全体の関心事です。もし人間が予測した問題なら、たとえ的中率が高くてもそこまで話題にはならないでしょう。リリースの左上の特等席に「AI」の文字を入れたのが効いています。
また、AIで出題予測するというシステムを素人が理解するのは難しいのですが、それを(ポイント2)図解することで非常に理解しやすくしています。
実は第1弾のリリースには図解がありませんでしたが、ある新聞社が書いた図解入りの記事が分かりやすかった事例を踏まえ、今回は佐藤さんがパワーポイントで作成したそうです。広報担当者も、このくらいの図表がつくれると理想的です。
佐藤さんの前職は古着店チェーンの広報。eラーニング業界に移って痛感したのが、ビジュアル素材の少なさでした。問題集では画にならないので、女性社員をモデルにイメージ写真を撮るなど、様々な工夫をしています。
2枚目には、宅建士試験の利用者が、受験にどの程度影響したかを回答したアンケート結果を載せています …