
スパイクスアジア2018の審査員ら(中央が審査委員長を務めたDarren Burns氏)。
「アジア版のカンヌライオンズ」と言われるスパイクスアジア。今年も9月26日から3日間、シンガポールで開催され、PR部門には223作品がエントリーされた。今回のコラムでは、PR部門のレポートをお届けしよう。
今年は日本のエントリーが全体の4分の1、インドのエントリーが4分の1と、この2カ国だけでエントリー数の半数を独占。スパイクス全体で見ても、日本勢の活躍が目立った年だった。日本審査員で博報堂ケトルの太田郁子氏は、「日本のPRクリエイティビティがアジアから評価され、とても誇らしく感じました」と自信を見せる。
今年の審査委員長は、ウェーバー・シャンドウィックで中国法人社長を務めるDarren Burns氏。同氏はかなり明確に審査基準を提示したようだ。ひとつ目に、PR業界を前進させるイノベーティブなアイデアであること。2つ目に、瞬間的なものではなく、持続性のある効果をもたらしていること。今年はビジネスインパクトについてもしっかり議論されたようだ。
そんな中、グランプリに輝いたのは、オーストラリアの「Palau Pledge(パラオ誓約)」。パラオに入国するすべての旅行者に世界初の環境保護誓約への署名を義務付ける取り組みで、旅行者のパスポートに押されたスタンプに自ら署名するというもの。カンヌでも受賞し話題になったので、ご存じの読者も多いだろう。スパイクスでの評価も非常に高く、5部門でグランプリを獲得。このキャンペーンを仕掛けたオーストラリアのエージェンシー、HOST/HAVAS Sydneyも、Agency of the Yearを受賞するに至った。
最も評価された点は、「ベストタイミング」ということに尽きる。今年のカンヌもいわゆる「SDGs祭り」状態だったが、その中でも注目の海洋汚染に関するものだったこと(カンヌPR部門のグランプリも海洋汚染をテーマにした「Trash Isles/ゴミ諸島」だった)、また大胆かつシンプルなアイデアから、満場一致でグランプリを獲得した。
「ここ数年『社会課題をいかにして解決するか』というエントリーが多かったのですが、昨年、一昨年と比べると少し数は減ってきているようです」と太田氏。「一方で、社会課題をポジティブなアプローチで解決しようとしているキャンペーンが増えたように感じました。ユーモアを持って議論を引き出し、合意形成を狙う。世界的に、暗いニュースはもうお腹いっぱい、という印象を受けました」。
たしかにPRの本来の役割は、人々を「脅す」ことではなく、世の中に「前向きな空気」を生み出していくことだ。国際課題であるSDGsが注目されるようになった今こそ、よりポジティブなアプローチが求められるのかもしれない。ではまた来月!
本田哲也(ほんだ・てつや)ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/戦略PRプランナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。著作、国内外での講演実績多数。カンヌライオンズ2017PR部門審査員。最新刊に『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。 |