
マシンのひとつである「Pec-A-Boo」。親はチェストプレス(大胸筋のトレーニング)をしながら、向かいあった子どもに「いないいないばあ」ができる。
多忙な広報パーソンにとって、健康管理も重要な仕事。2014年に米国の求人サイトが「もっともストレスの多い職業」ランキングを発表したが、「企業広報担当者」は消防士やパイロットに続いてなんと6位(!)。健康維持のためにエクササイズを欠かさない読者の皆さんも多いだろう。そして今月の本誌テーマは「健康経営」。
そこで今回は健康をテーマにした組織ブランディングの好事例を紹介しよう。YMCA(Young Men's Christian Association)が実施した「PLAYNASIUM」というキャンペーンだ。
中身の前にまず、皆さんはYMCAという組織をご存じだろうか。同組織は1844年に青少年の成長を願ってロンドンで誕生。現在は世界120の国と地域に広まり、6500万人以上が活動する世界最大規模の非営利団体だ。
「精神」「知性」「身体」のバランスをビジョンとするYMCAが力を入れてきたのが体育プログラム。実は、バスケットボールやバレーボールも同組織の考案によるものだ。そんなYMCAは近年、若い親との健康分野におけるコミュニケーションの活性化に迫られていた。現代的な親たちに、歴史あるYMCAの存在や理念が届きにくくなっている──この現状を打破する必要があったのだ。
YMCAは若い親たちにじっくり話を聞いた結果、ひとつの事実が浮かび上がった。親たちは、自分たちのエクササイズの時間も必要と感じているが、それ以上に子どもと触れ合う時間が大切だと捉えていた。ジムに子どもを連れてはいけないし、子どもが遊ぶことを優先するとなかなか自分たちの運動に時間が割けない。そんなジレンマを抱えていたのだ。
「それなら一緒にしてしまえ!」と開発したのが、「YMCA PLAYNASIUM」と呼ばれる3種のエクササイズマシン。子どもの自重を利用して親がエクササイズでき、かつ親子のコミュニケーションがとれるようにデザインされている。マシンはオーストラリアの21カ所に実際に設置された。親たちは効率的に時間を使えるだけでなく、子どもに運動習慣を教育することもできる。そしてYMCAは直接的に組織の理念をPRできるのだ。
このキャンペーンは1000万を超えるPRインプレッションを生み、4万人を超える親が実際にマシンを体験した。さらに、体験した親のうち87%のYMCAに対するパーセプションが「健康を重視する組織である」に変化。結果的に、このエリアにおけるYMCAサービスへの登録は27%も向上した。
象徴的な「モノ」を用意して、そこからニュースや口コミにつなげるのは、イマドキのPR手法のひとつ。残暑に負けず、エクササイズしながら乗りきりましょう。ではまた来月!
本田哲也(ほんだ・てつや)ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/戦略PRプランナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。著作、国内外での講演実績多数。カンヌライオンズ2017PR部門審査員。最新刊に『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。 |