
2018年2月のスーパーボウルで放映された「バドワイザー」のCM。
今月の本誌の特集はインターナルコミュニケーション。社内広報というと、ついつい「社内に何かを周知させる活動」と思いがちだ。それもさることながら、もっと重要なのは「社員の活躍をいかに社内外に発信するか」。
自分たちの活躍が世の中に知られる、自分たちの仲間の活躍を知る、ということが結果的に従業員のモチベーションを上げ、ロイヤリティを高める。どんなストーリーテリングで、それを発信していくか。これからのインターナルコミュニケーションに欠かすことのできない視点だ。今回はそんな事例を米国からお届けしよう。
全米が注目するイベントといえば、NFL(ナショナルフットボールリーグ)の優勝決定戦「スーパーボウル」。2017年は全米で1億1130万人が視聴したと言われる。大手ビール会社のアンハイザー・ブッシュは、今年の2月、世界的なビールブランド「バドワイザー」のCMをスーパーボウルで放映した。そのCMに登場したのは、ジョージア州にある同社のカーターズビル工場の責任者、ケビン・ファレンコフ氏という本物の従業員だった。
2017年後半、ハリケーンによってアメリカ・テキサス州やフロリダ州は甚大な被害を受け、カリフォルニア州では大規模な山火事が発生。そこに300万缶もの飲料水を送ったのが、アンハイザー・ブッシュだ。なんと、通常ビールを製造している工場を、水の製造に切り替えて対応したというのだ。
同社は「緊急ウォータープログラム」と称して、災害時に必要な飲料水も製造。過去30年にわたって、災害支援を行っていたのだ。しかし、この素晴らしい活動は十分社会に認知されておらず、あろうことか社員の間でも周知されているとは言えなかった。
アンハイザー・ブッシュは2017年から大手PR会社と契約し、この活動のインターナルコミュニケーションを開始。災害時は、社員向けオウンドメディアで対応情報がリアルタイムに発信された。9月のレイバー・デイ(労働者の日)には、労働省のアコスタ長官がカーターズビル工場を表敬訪問し、現場の従業員たちをねぎらう様子が全米に報道された。こうした広報活動が社員の心を動かし、被災社員へのドネーションも増額した。
CMでファレンコフ氏は深夜に緊急電話を受け工場に向かう。指示を受けた工場従業員たちは、ビールの製造を飲料水の製造に切り替える作業を進める。やがて、飲料水を載せたトラックが、次々と工場から被災地へ向かう。これはフィクションではなく、この1年の間に起こった実話なのだ。これがどれだけ従業員やその家族の心を動かすか――まさにビヘイビアチェンジを起こす、素晴らしいインターナルコミュニケーションだ。ではまた来月!
本田哲也(ほんだ・てつや)ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/戦略PRプランナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。著作、国内外での講演実績多数。カンヌライオンズ2017PR部門審査員。最新刊に『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。 |