広子たちは、「社外取締役の義務化」に関する議論を進める中で、コーポレートガバナンスについても興味が深まっているようだ。今日も「投資家と企業の対話ガイドライン」に関する新聞記事を題材に話が始まった。
広子・東堂:こんばんは。先ほどお送りした「投資家と企業の対話ガイドライン」についての新聞記事、見てもらえましたか?
大森:こんばんは。よく見つけるなあ。関心が高い証拠だね。で、特に気になったところはどこかな?
広子:「株式持ち合い」についてですね。具体的に説明しろと言われても、当社のメインバンクです、とか、取引先の企業です、といったことをそれ以上どう説明すればいいの?って思いますね。
大森:なるほど。
広子:それに、そもそも「Comply or Explain」が基本路線だったはずなのに、ガイドラインを制定するなんてね。大森さんの嫌いなパターンですよね。
大森:ははは、その通り……と言いたいところだけど、そこは外れだよ。ガイドラインといっても、適合しているかどうかを判定する基準や目安・指標ではなく、枠組みとしての意味合いで使っているんだ。
広子:へええ、そうなんですか。それは意外でした。
大森:少し、原典を振り返ってみよう。ここでの原典資料は、金融庁が組織した「フォローアップ会議」が、両コード制定後の状況、問題点を整理、見直しを行ってきた成果をまとめた「コーポレートガバナンス(CG)・コードの改訂と対話の策定について」だね。
東堂:なるほど。一定の評価はできるけれど、「未だに経営陣による果断な経営判断が行われていない」「投資家と企業との対話の内容が依然として形式的なもので、企業に『気付き』をもたらす例は限られている」などが問題点ですか。
大森:そうだね。ガバナンス体制は充実してきているし、日本企業の業績は向上傾向にある。だけど、ガバナンス体制の充実が企業価値の向上につながっているかはまだ評価できないと書いてあるね。
東堂:「Comply or Explainを促すため、コード改訂と機関投資家と企業の対話において重点的な議論が期待される事項をガイドラインに取りまとめた」とも書いてありますね。
大森:まあ、そういうことで、コードはつくったからあとはお任せ、ではなく、いわゆる「PDCAサイクル」を回そうとしている姿勢は評価してもいいと思うよ。それだけ「形だけではなく実態」を求めているとも言えるけど。
見直される「株式持ち合い」
東堂:全体の動きは分かりましたが、個別ではどう評価していますか?
広子:そうですよ。今までIR担当としては安定株主を増やして経営基盤を固めようと頑張ってきたのに、政策保有株式は縮減しなさいって一方的だと思いません?
大森:確かに改定案では原則1-4.の「政策保有に関する方針」が、縮減を前提に改正されているね。
じゃあ一旦整理しよう。まずは、政策保有株式、株式の持ち合いとはどういうこと?
東堂:政策保有株式は「純投資目的以外の目的で保有する上場株式」だと聞いています。その結果、相互に相手の株を所有することがあり、これが持ち合いだと。
大森:そうだね。じゃあその目的は?
東堂:安定株主の形成、それによる敵対的買収の回避、企業の集団化、取引の強化・安定化などによる業績の安定化などが目的でしょうか。
広子:同業他社の情報収集も聞きますね。株式の持ち合いと聞くと印象が悪いですが、安定株主という意味で捉えると、IR担当や総務担当にとっては強い味方のような気もして。なんでダメなのですか?
「開かれた総会」とは何か?
大森:今整理した目的、つまり企業側のメリットが、そのまま解消・縮減に向かわせる原因だと思うね。
広子・東堂:ええっ!?
大森:安定株主は、業績や会社の規模がどうであれ、何も言わずに現経営陣を支持してくれる株主でしょ?
広子:そう言われると……。
大森:安定株主が大半だと、個人株主の意見なんて関係なくなるよね。「開かれた株主総会」を目指す、なんて言うけど、形式だけで、結局は決めてあった結論になるんじゃない?
広子:ぐぬぬぬ。
大森:それに、コーポレートガバナンス改革の目指すところってなんだっけ?
東堂:CGコードでは、「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」です。
大森:そうだね。で、KPIとしてはROE(自己資本利益率)の向上、ということだよね。ROEを上げるにはどうしたらいいんだっけ?
東堂:利益率を上げるか、資産効率を上げるか、財務レバレッジをきかせるか、でした。
大森:広子さん、その観点で株式の持ち合いが合理的か説明してみて。
広子:持ち合いによって、取引が安定化すると、リスクが減少して相対的に収益が向上します。
大森:いいねえ、今のグローバルな競争環境でも同じことが言えるかな?取引関係が固定化されるデメリットは?持ち合いを解消して、資産効率を上げて、かつ再投資で儲けた方がいいんじゃない?
広子:……当社の場合は降参です。当社は原材料も、供給体制の安定化も重要ですけど、コモディティが多いので競争的な環境で仕入れた方がいいかもしれないですね。
大森:持ち合いで安定化を図るってことは、ほかに積極的に投資すべき事業領域を見つけられませんって、宣言するようなものだからね。
広子:厳しいなあ……。
大森:ただし、短期的な観点ではなく、長期的な観点で、ガバナンスを考えるのは難しいと思う。次回はその話だね …