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IRの学校

機関投資家との対話で注意すべきポイントは?

大森慎一(Japan REIT 社長室長)

広子たちは、前回に続き「投資家と企業の対話ガイドライン」を議題に話を進めている。今日は機関投資家との「対話」そのものがなかなかうまく進まないことが話題にのぼっている。


広子東堂:こんばんは。

大森:こんばんは、今日はこの間の続きでいいかな?

東堂:はい、前回は政策保有株式の縮減の話が主体でしたね。

広子:まとめると、株式の持ち合いは縮減して積極的に再投資しよう、と政府や市場から促されているということですよね。

大森:そうだね。そして、投資の状況の監視や投資先に関する助言を機関投資家に委託、という図式だね。

東堂:そうですね。ただ、我々企業側としては、対話しろと言われてもなかなか議論が噛み合わないし、説明しても立場の違いもあって納得してもらえなさそうと尻込みしてしまいます。

広子:機関投資家にとっては、仕事が増えて迷惑なんじゃないですか?

大森:そういう面もあるかもしれないけど、機関投資家の仕事内容を考えると、重要だと思うな。じゃあ、ガイドラインの内容を見る前に「投資家と企業の対話」について考えてみよう。

機関投資家の評価手段

大森:まずは、立場の違いを考えてみよう。機関投資家の仕事ってなんだっけ?

東堂:年金などの資金を預かって運用している、ということでしたよね。

大森:そうだね。機関投資家の後ろには、アセットオーナー(資金の出し手)が控えている、ということだね。ほかには?

東堂:以前お伺いした機関投資家の松下さんは、社会的な意義がある企業で、しかも「割安」な銘柄を探すことが生きがいだ、みたいなことをおっしゃってました。

広子:へえ、投資先として評価されると嬉しくなるような着眼点ですね。

大森:いいねえ。機関投資家は、提示している投資手法・銘柄選定を守った上で、アセットオーナーと約束した目標「IRR」を実現することが目標となる。

広子:IRRの実現は分かりますけど、手法を限定すると選択肢が狭まりませんか?

大森:いい質問だね。機関投資家は一時的な結果だけを求められているわけではないんだ。長い期間にわたる運用を任されている機関投資家は、特に、投資効率がよいだけではなく成功の再現性の高い投資手法を示す必要がある。

再現性を高めるためにも、内部資金の使い方の助言、意思決定のプロセスの監視などを通じて積極的にアドバイスを行うことは、余計な手間ではなくむしろ本道の仕事かもしれない。

「業界全体の変化」に注目

広子:そうなんですね。でも、話が噛み合わないというか、なかなか納得してもらえないのはなぜなのでしょうか。

大森:う〜ん。ビジネスモデルを判断するアプローチの違いはあるかな。東堂さん、機関投資家さんを訪問したときのこと覚えているかな?松下さんは銘柄選定のとき、どんなアプローチをしていると話していたっけ?

東堂:えっと、業界自体が伸びている、業界の勢力地図や競争原理が変わっているなど、動きのある業界に着目します。その中で、個別企業の競争優位性を分析する、と。

大森:そうだね。企業側は現に持っている資産や競争力をメインに話をして、業界でもオンリーワンだ、優位性がある、投資価値がある、と説明する。しかし機関投資家は業界の変化自体に価値があると考えているんだ。その変化への対応力、新たな環境下での競争力の再構築の可能性を分析したい。

こんな感じで、評価のアプローチにはいわば「静」と「動」のような大きな違いがあるんだよ。

東堂:業界の変化ですか。

大森:競争環境が変化しない業界は、シェアも変動せず、ローリスクローリターンだと判断するんだろうね。

広子:マーケットインかプロダクトアウトか……みたいな話ですね。確かに当社でも、業界や同業他社についての質問を受けると、当社の技術は独自性が高く比較できない、って答えがちですね。

大森:うがった言い方だけど、それだけだと、市場の魅力が増し、他社が参入するなど環境が変化した場合の対応策など考えていない、というメッセージにも聞こえるね。

広子:意地悪だなあ。でも、現在の競争力を強調するだけでは足りないですね。

大森:そうだね。ガイドラインでも「経営環境の変化に対応した経営判断」をして、それに対応した設備投資や研究開発投資、人材投資などが戦略的・計画的に行われているかを対話のポイントとして挙げている。経営環境の変化が前提になっているんだ。

投資家と企業の対話とは?

広子:アプローチが違うから、主張したいところも違う。だからなかなか話が噛み合わない……。じゃあ、どうすればいいのでしょうか?

東堂:相手の思考パターンが分かれば対応できるんじゃないですか。

大森:そして、機関投資家はアセットオーナーに、投資結果と投資行動の経緯を説明する責任がある、ということが重要だよ。

広子:彼らにも説明責任があるのですね。

大森:そうだね、だから質問するのさ。腹落ちして自分の言葉にできるまで。なんとなく分かったレベルでは、アセットオーナーに説明はできないよね。

広子:なるほど。目の前にいる機関投資家を丸め込めばいい、ってわけじゃないんですね。

大森:おいおい。

東堂:質問にただ回答するのではなく、機関投資家の投資行動として説明したい筋書きを汲み取って、補足説明するつもりで対応することが必要ですね …

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